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旧栃木みどり幼稚園

研究論文

自己資源による発表会
学校法人長清寺学園 栃木みどり幼稚園
教諭 大垣 寧世
 
本研究では、年少時からミーティングを生活の中に取り入れてきた子どもに焦点を当て、自己資源を使い発表会を作り上げた子どもと、保育者のトップダウンで発表会を進める子どもの違いに着目した。
 
○栃木みどり幼稚園について
〈栃木みどり幼稚園の特徴〉
子どもは“自分”が認められると自信がつき、挑戦してみようとする気持ちが生まれ、生きる意欲が増してくる。また、園は自分たちのものと認識し自分たちで創り上げていくことで、自治の心を育む。
以上のことを踏まえ、本園では日々の生活の流れの中で、子どもが主体的に動く保育を重視している。子どもと保育者間に信頼関係を作り、安心した心的環境の中で子どもの“やりたい”を重視し、失敗や成功を積み重ねられるようにする。
 
〈教員〉
・自己一致・・・保育者自身が心理的に安定をしていて、ありのままの自分を受け入れていること。
・共感的理解・・・相手の立場になって考えたり、感じたりする。子どもの行動でいけないことはいけないと伝えるが、やらざる終えない気持ちを共感してあげる。子どもの行動の理由を子どもの背景を含め、考えることが必要である。
・無条件の肯定的関心・・・子どもや保護者がどのような状態であっても関心を持つ。違う価値観を認め、自分と相手はかけがえのない存在であると尊重をする。

この3点を基本姿勢とし、一人ひとりの子どもに即したエビデンスに基づく保育をする。
また、毎日の終礼カンファレンスで園全体の共通理解を持たせた教育プログラムの研究をする。
 
 
○はじめに
OECD教育スキル局長のアンドレア・シュライヒャー氏は、「簡単に暗記できたり、テストで簡単に測れたりする能力は、どんどん必要ではなくなっていく」と断言している。知識を蓄積することは、パソコンやロボットでもできることである。そこで幼児期から、社会に関わっていくために必要と考えられる能力(キー・コンピテンシー)の育成を保育に取り入れていくことが求められるのではないか。
 
1.テーマの設定の理由
H29年度におこなわれた、本園での発表会では保育者がすべて準備をし、演目などの流れを決めるのではなく、子どもが主体となり話し合い(ミーティング・サークル)を通して、子どもが創り上げた。<自己資源の活用>
以前は、保育者の提案・投げかけによって子どもも考えるが、保育者が引っ張っていく発表会(行事)だったと考える。<他者資源によるもの>
本論文では、キー・コンピテンシーを培いながら自己資源で行事を進める過程と他者資源で行事を進める過程では子どもが得る力にどのような影響があるのかを差異も含め検証することを目的とする。
 
2.OECDにおけるキー・コンピテンシーとは
OECDが2000年から開始したPISA調査の概念的な枠組みとして定義付けられた。PISA調査で測っているのは「単なる知識や技能だけではなく、技能や態度を含む様々な心理的・社会的なリソースを活用して、特定の文脈の中で複雑な課題に対応することができる力」である。
キー・コンピテンシーは①自律的に活動する力(展望力、物語力、表現力)、②道具を相互作用的に用いる力(言葉の力、科学的思考力、テクノロジー活用力)、③異質な集団で交流する力(対話力、協働力、問題解決力)の3つの能力から構成されている。(図)

3.ミーティング・サークル活動(コンピテンシーの核心となる考える力)
3-1 ミーティングの内容
サークル対話(円になって座り、話し合う)形式でおこない、大人も子どもも平等に権利がある。平等な権利とは、保育者が物事を押しつけるのではなくミーティングで採決をし、大人も子どもも発言をする権利を持っていることである。ミーティングには問題解決、思いを伝える等様々な種類がある。ミーティングをおこなう前提として、ありのままの姿を受け止めてもらえる環境と安心して自己表現ができる大人との信頼関係が必要と考える。保育者が子どもの苦手とすることに対して “どうしてできないの”と感情的に子どもと接していると、“できない=駄目な子”と当事者の子どもにも周りの子どもにも伝わってしまう。苦手なことは誰にでもあること、良い所も多くあることを伝えていくことで子ども自身が相手を思いやることに繋がると言える。
また、子どもをひとりの人として尊重をする。この前提がないと「保育者」と「子ども」の関係になり、答えのある質問をし、答えを誘導してしまうことがある。人に言われたから~をする等、子どもが保育者の考えで動いてしまうことも考えられる。本園は自分たちで経験をし、自分たちで話し合い、モラルを考えることや自分たちで自己決定をすることを大切にしたいと考えている。
以上の点をふまえてミーティングを繰り返しおこなうことで、キー・コンピテンシーを身につけることができるのではないかと考える。
 
本園では、ミーティングをおこなう時に3つの約束を子どもに伝える。
  • 自分の席に座り参加をする。(座ることが難しい時には、子どもたちに伝え承認を取る)
2、発言をする時には、手を挙げて発言をする。
3、自分以外の人が話している時には、話を聞く。
 
<保育者が意識したこと>
保育者は、ファシリテーターとして参加をする。
・意見を否定しない。
・子どもの発言に「どうして?」と問い返す。
常に論理力・批判力を身につけることを目的とした。議題に挙がったことに答えるには、発想力が必要になり、批判力を身につけることで根拠をより正確に問うことができる。
また、説得力のある意見を出すには、論理力・表現力が必要になる。
 
3-2 サークルの内容
本園では、ミーティングのように円になって座り、特別な時間を設けずいつでもどこでも自由に話し合うことをする。楽しかったこと、悲しいことがあった、今日の気分、やりたいことがある等、どのようなことでも表現して良い場を作った。その主なきっかけとして、机の座り方を変え、いつでも全員の顔がみられるようにした。
朝のあいさつ前・昼食時・帰りの用意後に全員が着席すると自然と会話が始まり、サークルになる光景が随所に見られた。
 
3-3 ミーティングを導入した保育
H27年度よりミーティングの導入
年少
子どもたちの最初のミーティングは、年少の時である。当時年長児のクラスにミーティングを見に行き、輪の中で雰囲気を感じる(発言しても可)ことを数回、体験する。
 
年中
年中では、保育者が意図的にミーティングを生活に入れていく。最初は、議題を保育者が提案し、その議題について意見や考えを出していく。
ある日の事例では、ホールで遊びたいという子がいたため、ミーティングにかける。
保育者:ホールで遊びたいっていう意見があるんだけど、どうですか。
子ども:いいよ。
子ども:やだ。
保育者:嫌なお友だちは何が嫌ですか。
Mちゃん:外がいい。
K君:え~ホール、ホール。
 保育者:ホールが嫌なんじゃなくて、外で遊びたいんだね。
Mちゃん:だって、砂の続きしたいんだもん。
 保育者:そうか、外で遊びたいことがあるのね。K君はホールで何をしたいの。
  K君:すべり台。(鉄棒とマットで作ったもの)
 保育者:すべり台がやりたいんだね。
  W君:じゃあ、じゃんけんで決めるのはどう。
Mちゃん:え~やだ。
保育者:ホールですべり台をやりたい子もいるし、外でも遊びたい子もいるんだよね。
          どうしようか。じゃんけんは嫌なんだもんね。
K君:すべり台楽しいよ。外は毎日遊べるから。
Mちゃん:・・・。(考えている様子)
保育者:もしかして、泥だんごがどうなっているか見たいのかな。だからどうしても今日外に行きたいんじゃないかな。
Mちゃん:うん。
W君:じゃあ、半分ずつ両方やるのはどう。ホールにも行って、外でも遊ぶ。
K君:いいね。
子ども:いいよ。
Mちゃん:いいけど...ホールにはどのくらいいるの。
 
この後はホール・外遊びの時間を決め、Mちゃんを含め、全員が納得した上で遊びにいく。
 
<子どもの反応・ファシリテーター(保育者)の役割>
・最初は、「こうしたい。」「いいよ。」「やだ。」と自分の思いのみを伝え、子どもだけでは話し合いが進まない状態であった。保育者は“どうしてそう思ったのか”の質問と共に、子ども自身がどんな自分の気持ちでも出して良いと感じ表現できるように「こう思ったんだね。」と受け止め、フィードバックしていくことをした。
 
<ミーティングの継続からみられたこと>
・ミーティングの中には、その時の状況・気持ち・相手によって結論がでないこともある。(例えば“貸してと言われたら必ず貸さないといけないのか”“入れてと言ったら必ず遊びに入れるのか”等)大人の理想としては「貸した方がいい」「入れてと言われたら入れてあげないと」と思うだろう。しかし、本音は「嫌な時もある」のではないだろうか。
 ミーティングでは大人が求めるような正しい意見ではなく、「先生も断ったことあるなぁ。大切な物は貸したくなかったから。」と大人も子どもも本音を言っていく、また言えるように配慮した。一つの結論を出すことを目的とせず、どんな時に嫌と感じるのか、相手の立場が自分だったらどう思うか、断られた時どう感じたのか、相手も自分も納得することはあるのか等をとことん話し合うことをした。譲れないことには理由がある、自分とは違う考えもあることを知る大切な機会になる。続けていくことで、自分と相手を考えた思いやりが生まれ、言われたから~をする、言葉だけの「ごめんね」「いいよ」ではなく、自分の思考が伴ってくるのではないかと考える。
・自分本位で思いを伝えていたが、どうしてそう思ったのかという保育者の投げかけで、他児の気持ち・考えを知る機会に繋がり、ミーティングを繰り返していくことで、自分の意見を言った後に「みんなはどう思うの。」と相手の気持ちを知ろうとするようになる。

また、話し合いを積み重ねてきたため友だちの苦手・得意・好きなこと等、相手を知り、そのうえで“こうすればどうか”と相手を尊重し、他者理解ができるようになってきた。

・気持ちをうまく表現できず、うつむく姿や、手を挙げて発言することができず話を聞くだけの子もいる。
・保育者の「みんなはどうですか。」に答えることができない子や、「わかんない。」とすぐに答えていた子も、考える癖がついてきて、自分なりに「~なんじゃないかな。」と言えるようになってくる。
 
年長
少しずつ自分の意見と理由を伝えることができるようになる。また、自分とは違う意見が出た際、相手に「どうして~なの?」と理由を聞くことができるようになってくる。
発言や自分たちで決めたことには、責任が生まれる。物事を決める時には、やりたいことを決めるだけでなく、その時の約束事、予測される事柄について自分たちはどうするかまで話が進むようになる。
一方、子どもによっては全体のミーティング以外の場(少人数で遊んでいるとき)では、自分の考えを伝えられるが、大人数で注目されると発言できない子がいる。
そこでサークルを取り入れる。
 
3-4 サークルの取り入れ
3-2に記載したサークルを普段の生活に取り入れる。サークルをしたことで見られた子どもの変化を次に示す。
・子どもから自発的に、全員に「僕、見せたいものがあるんだけど、やってもいいですか?」「ねえ、今日おばけごっこやらない?」と提案がでるようになる。提案から、やるかやらないか、どこでいつおこなうか等、子どもがみんなに聞きながら決めていこうとする姿がでてきた。
・Sちゃんは、手を挙げて“発表をする”に近かったミーティングには、人の話を聞いているだけであったが、サークルの井戸端会議のような雰囲気であると発言をする姿があった。
 
4.29年度 年長 発表会
4-1 発表会までの過程で見られた子どもの姿
ミーティングによって考える力をはじめ、キー・コンピテンシーの土台を構築してきた子どもたち。自己資源で発表会を作っていく様子を事例で挙げる。
 
事例1 演目を自分たちで考え、やりたいこと・必要なものを計画し実行する(キー・コンピテンシー:自律的に活動をする)
子ども:合奏やりたい。
保育者:どうして合奏がやりたいと思ったの。
子ども:運動会でやったの楽しかったよね。
子ども:他の楽器もやってみたい。            
    (たいこ・トライアングル・タンバリン・シンバル・すず等が子どもから挙がる。)
Mちゃん:私、メロディオンやりたい。だけど、弾ける曲じゃないとできない。
子ども:何なら弾ける。
Mちゃん:かえるのうた、キラキラ星、とんぼのめがね、あとはチューリップかな。
Sちゃん:かえるのうたがいいな。
子ども:とんぼのめがねがいいよ。だって、1回もみんなでやったことないもん。
Sちゃん:え~、私はかえるのうた。
保育者:かえるのうたがいいのね。どうして、かえるのうたがいいのかな。
Sちゃん:簡単だから。これなら、みんなできると思って。あと、好きだから。
 保育者:みんなでやるから、みんなができるものがいいと思ったんだね。
あとSちゃんはかえるのうたが好きなんだって。
子ども:じゃあ、両方やるのはどう。メロディオンはMちゃんが弾けるし、かえるのう
たは簡単でしょ。とんぼのめがねをやりたい子もいるし。できないかな。
Sちゃん:それでもいいよ。         
子ども:いいと思う。2曲できるよ。
Mちゃん:私、練習する。じゃないと間違えちゃうから。
     (このあと、楽器を見て決めたいという意見があり、後日楽器に触れ決める。)
ミーティングでどの程度の演目なら自分たちができるのかを考える。また、自分で決めることで責任が生まれ、練習をすぐに始めようとする姿も見られた。
 
※幼児的万能感について
倫理や現在の技術力を考慮に入れることなく、自分だったら実現可能だと思い込むことを幼児的万能感という。幼児的万能感は成長過程であり、全員経験する。成功体験と失敗体験の両方を経ることにより、幼児的万能感は薄れてくる。
 
この事例では、子どもたちは自分が万能ではないということが分かっている姿が見受けられる。ミーティングやサークルの積み重ねの中で“~はどうしてか”“~はどうすればいいか”“~になるかもしれないがその時はどうするか”と物事を論理的に考えることをする。また、自分たちで選択・決定することで、自分で決めたという覚悟と責任を意識することになる。仮に失敗をしたとしても誰かのせいにするのではなく失敗を自分の責任として学びにする。自分の限界を把握し、理想に反して実現できないこともあると実感する。これらの点から、子どもたちは無責任に意見を出すのではなく、やりたいことをどうしたらできるのかを自分たちの能力と照らし合わせて考えることができるのではないかと考える。
 
事例2 自分たちで作ることになった劇の小道具(キー・コンピテンシー:異質な集団で交流する・相互作用的に道具を用いる)
小道具のはちみつがまだできていないことに気づいたMちゃん。
Mちゃん:はちみつないけど、どうするの。
保育者:先生も思ったの。どうするんだろう。
Mちゃん:じゃあ、みんなで作る。(友だちの女児2人を呼んでくる。)
保育者:K君とR君がはちみつを食べる真似をするんだよね。どうしたら食べる真似がしやすいかな。
         (K君とR君は障がいをもっており、台詞の代わりに動作で表現することになっていた。)
Sちゃん:はちみつだから、黄色っぽくしたいよね。
Mちゃん:折り紙を小さく折ってはちみつにするのはどうだろう。それなら、手で持てるし、R君こういうの好きだと思う。
Nちゃん:入れ物にたくさん作って入れたらいいかもね。

ミーティングを通して、自分とは異なる考え・気持ちがあることに気づき、生活の中で相手を知ることをしてきた。それぞれに、はちみつのイメージはあったと思うが、子どもたちはK君・R君のことも考え、作り上げる。また、作り終わるとK君とR君に見せに行き、興味をもつかどうかの確認をした。子どもたちはK君とR君に一方的にやらせることはしなかった。どうしたらK君とR君が興味を持ってできるのか、と試しながらK君とR君と一緒に考えようとしたのだ。できるかできないかではなく、その子の個性を受け止め考えることに繋がっていると思われる。
 
~様々な子どもが共存するクラスで~
 クラスで一つのことを行うとき、人と違うことや個性が認められず、人と同じことをさせることでクラスが一体感を持っているとされることがある。本園では人と違って良いとし、子どもの個性を大切にする。子どもたちは日々、個々に好きなこと・やりたいことをしながら過ごしている。その中で濃密なコミュニケーションをとっており相手を知ることをしている。そのため、何かをする際には一人ひとりが自分の個性をもちつつ様々な方法でコミュニケーションをとり、相手を尊重しながら創り上げていくことで、一体感が生まれている。
 
事例3 練習をしながら、変化をしていく発表方法(キー・コンピテンシー:自律的に活動する)
教室で劇の練習が終わると「ねぇ、踊りやろう。」と子どもたちから提案があり、踊りが始まる。誕生会に踊ったもので、劇の練習後の楽しみなのか、毎回踊る姿があった。
保育者:発表会でも劇の後に踊りたくなっちゃいそうだね。
子ども:やりたい。発表会でも踊りやろうよ。
このことがあり、踊りを発表会に取り入れることになる。劇の最終形態で踊りを楽しんでいたため、子どもの個々の踊る場所も自然と前後の2列と決まっていった。
 
子どもたちが実際のステージに慣れ、自分の立ち位置が分かるよう、早い段階でステージ練習をいれていく。
K君:これって、僕たち見えるかな。(K君は後ろの列だった)なんだか、僕から
(前が)見えないんですけど。
 
子どもたち 動きながら「ここなら見える。」「でもそうしたら狭いよ。」と考える。
Sちゃん:じゃあ、前の人がここで(ステージ下)、後ろの人はここ(ステージ上)にしたら見えるんじゃない。
子ども:えー。いいな。前で踊りたい。
K君:じゃあ、途中で交換しようよ。そうしたら、前でも踊れるよ。
子ども:どこで交換するの。
W君:「交換」って僕が合図するよ。交換って言ったらみんな(後ろの列の子)は
前に来て。やってみて駄目だったら、また考えよう。
実際に動いてみると、移動を含め子どもたちが納得するものになった。
子どもたちは考えたことや思ったことを相手に伝える。実際のステージで実行し、出た案を取り入れた方が良いと子どもが判断し、変更することになった。言われたことだけをおこなうのではなく、自分たちで考え行動する経験の一つとなった。失敗を駄目なことと捉えるのではなく次に繋げようとする姿も見られるようになる。
 
~成功体験と失敗体験について~
成功体験で重要なのは人に言われたからやってみるのではなく、自分でやると決めてやり遂げたかどうか大きいと考える。人に言われておこなったことではやらされた感が残り自信には繋がらない。自分で決めたことができた体験から実感し、自信に繋がる。
 失敗体験は失敗してもいいということを子どもが心で感じとっていくことで、立ち直る経験を積み重ねていける。失敗したから次はどうしたらいいかを考える方が多くを学び、困難に立ち向かう心が育つと考える。
 
事例4 当日になり、一人でメロディオンを演奏するプレッシャーを感じるMちゃん。
鉄棒や平均台をおこなう際、ぶつかる危険があるためスタートの合図を出すことになり、Mちゃんがおこなうことになっていた。しかし、当日の朝Mちゃんの「やっぱりできないかも。」「メロディオンが心配で。」の発言に、子どもたちのミーティングが始まる。(Mちゃんはメロディオンを一人でやることになっていた。)“どうする。”“先生に言ってもらう。”“誰か、言える。”と話していると、Wくんから「僕がやろうか。」の声が上がる。
Mちゃんの自分の限界を他者に表明できる力、Wくんを含め、クラスで瞬時に話し合い、自分のできることを伝え、臨機応変に動く力がみられた。
 
~なぜ自分の限界を表明できるのか~
人に助けを求めることは悪いことではない。自分はこんなことができるがこれは苦手ということが、成功体験や失敗体験の積み重ねから分かってきている。できることや苦手なことはMちゃんだけに限らず、自分にもあることを他児もミーティング等で知っているため、できないことを責める事はなかったと考える。ありのままの自分を受け止めてもらえる環境でないと自分を出すことはできない。個が尊重され、尚且つ、自分でやると決め、自分たちでつくっている発表会だからこそ見られた姿ではないか。
 
 
 
4-2 他者資源の発表会と自己資源の発表会の違い
 
他者資源の発表会
自己資源の発表会
ねらいの視点
発表会を成功させる。
将来幸せになるための必要な力を身につける。
保育者の働きかけ
・子どもに合った演目を考え、子どもに提供する。
・必要な物を作る又は準備する。
・練習の時間を取り、繰り返し練習をしていく。
・できたことを褒める、できていないところを指摘する。
・日常生活の中で考える力、表現できる力を身につけられるように関わる。保育者と子どもの関わりの中で、子どもの疑問に対してすぐに答えを伝えるのではなく、「どうしてだろう」「~なのかな」と子どもが考えられるように関わることをした。
・疑問や提案を含め、大人や子どもから議題がある時には、ミーティングを開く。
 
子どもの動き
・自分の意思に関係なく、言われたことを練習する。
・どうしてやるのか納得していないまま、嫌そうに取り組む子がいる。
・自分から考えて動く子が少ない。
・必要な物、自分たちがおこなうこと等を考え、実行する。
・必要な時には、大人に聞く姿がある。
・決定したことの責任は自分たちにある為、問題がある時には、話し合い、みんなで考える。
・自分で練習しようとする意欲が生まれる。
・個々の個性が発揮される。保育者や周りの子どもが認めていくことで、自己肯定感が積み重なる。
子どもの学び
 
・教えられた技術ができるようになる。
・できたことに自信がつく。
 
・計画を立て当日までの見通しを持てるようになる。
・失敗を次に繋げることができるようになった。(自分で振り返り学習する)
・相手と自分を深く理解し、考えようとする(相手を考えた思いやり)
・コミュニケーション力がついた。
・自分たちで作ることから、様々な材料・道具を柔軟に用いる力がついた。
・他者との活動により、リーダーシップやチームワークスキルを獲得した。
その後の姿
・技術はできるようになるが、発表会以外の場に繋がらない。発表会が終わると、練習でやらされていたことはやらなくなる。
・発表会後も子どもの行動として繋がっていく。自ら行動することを通して経験やスキルを構築していくことができる。
保護者
・できていることに焦点が当たる。
できているという結果や行動で評価される。
・プロセスの質に焦点が当たる。
しかし、一人ひとりのプロセスに焦点を当てた保育は保護者の理解が必要である。大人の理解がないと浸透していかない。
 園では、取り組みの経緯やねらいを保護者に伝え、個々に子どもの姿を伝えてきた。
 
○まとめ
ミーティングを取り入れることで、キー・コンピテンシーの核心である考える力の土台の構築ができる。一人ひとりが考え実行できる環境を作ることで、3つのキー・コンピテンシーの力を培う事に繋がったと考える。
4-2の表より、自己資源を活用した時の方が自ら考え、自ら行動する姿が多く見られる。他者資源での発表会では、一見教えられた技術ができるようになると見受けられるが、どれだけ子どもが自ら考え動けていただろうか。保育を振り返ると、以前おこなっていた他者資源の行事は、保育者が主導になっており、言われたからやる姿や言われないと何をしていいか分からない・考えない姿、子どもにストレスがたまる姿がみられた。保育者が行事を成功させるために練習をするより、子どもが自ら考え、表現し主体的に動ける過程を積み重ねることで、子どもの生涯に必要な力がつくと感じる。子どもたちはミーティングを通して、自分たちで選択・決定・実行をしてきた。その生活の流れの中に発表会があったため、自分たちで作り上げることができたと考えられる。子どもたちは自分の感情・思いを順序立てて考え、理由と共に考えを伝えられるようになってきた。また、自分とは違う考えを持っている他者がいることも知り、他者理解(他者を考えようとする心)に繋がった。自分たちで決め、それが成功した時には自信にも繋がり、次の意欲や自己肯定感も向上する。たとえ失敗したとしても、どうしたらよかったのかと次に生かせるよう学ぶことができる。
発表会の時だけミーティングをしても、自分の想いを伝えたり、相手を考えたり、論理的に説明をしたりはできない。ミーティングを積み重ねてきたことで得られた力と考えられる。
よって、トップダウンで行事を進め、保育者が決めたことを言われた通り行う他者資源による活動より、生活の流れの中で話し合い、考え、実行し、自己資源を多く活用する活動の方がより多くの力が構築されていくと言える。
 行事に限らず、日常生活の中で子どもにトップダウンの指示を出し、子どもにその場しのぎの成果を求めていないだろうか。必要なことは、大人に言われるから何かをするのではなく子どもが自ら考え行動することである。キー・コンピテンシーを培うには、保育者が一人ひとりに焦点を当て、幼児期に多くの経験と子ども同士の関わりが生まれるように日々の保育と幼稚園のあり方を見直していくことが必要ではないかと考える。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
参考文献
 
・キー・コンピテンシーの核となる「考える力」を育む - 教育オピニオン - 明治 図書オンライン
 
・尾木直樹(2017)
 取り残される日本の教育 わが子のために親が知っておくべきこと
 講談社

観察レポート

男児Kの対応をして感じたこと
~本当のクラスの一体感とは~

学校法人長清寺学園 栃木みどり幼稚園 教諭 坂入仁美

1. はじめに
○栃木みどり幼稚園の特徴・教職員について
(1)特徴
・子どもが主体的に動く保育。
・子どもの自己決定。(自分でやりたいことを決める)
・クラスミーティングで話し合いや決め事をする。
・異年齢混合保育
・インクルーシブ教育
(2)教職員
・子ども一人ひとりに合った保育をする。
・子どもとのかかわりは大人と対等にする。
・子どもを否定せず肯定する。(例 お部屋は走りません。ではなく、お部屋は歩きます。)
・子どもの発言や行動で気になった時には記録し、いつ・何時に・何の時にするのかを研究する。
・常に「何で」「どうして」の疑念をもつ。また子どもにも「なんでそう思ったのかな」など問いかける。
・大人の抑圧での保育ではなく子どもの意見を教員が尊重し保育する。
(子どもにも選択する権利がある)
 ○私の保育に対するポリシー
 ・子どもの考えや思いなど否定しない。   
・子どもの言動や行動で気になったら記録をし、なぜ言ったのかなど考え仮説を立てる。
行動のときはなぜするのか動きを見て考える。
・してはいけないことをしてしまったときは毅然とした態度で子どもに伝える。
・発達障がい児の子どもに対してクラスの子ども達と同じ関わり方で接する。など

○ポリシーになった理由
 ・毎日の保育研究や終礼カンファレンスで子ども一人ひとりの対応や研究をしていくうちに自分のポリシーになり、子ども達が楽しく幼稚園生活を送れるようにしたいと思ったこと。
・子ども一人ひとりの個性や好きなことを保育者が見つけて子どもに自信をつけてもらいたいと思ったこと。
 
・発達障がい児の子どもと関わり保育者がその子を理解しようとたりその子のペースに合わせて保育をしていくことにより子どもが頼りにしてくれることが嬉しかったため。
 また、保育者が他の子ども達と同じかかわり方をしたり、その子のことを子どもに話をすることのより偏見がなく保育者も子ども達も対等にかかわることができたため。
・平成30年8月に某幼稚園に就職し、製作時間の保育を見て保育者が子どもを否定する言葉が多かった。否定された子どもの表情は暗く自信をなくしているようだった。私が子どもに「上手にできたね」と一言言うと子どもは私の目を見て照れくさそうに笑って頷いてくれた。保育者の言葉かけはほとんどが「違うでしょ」「先生の話聞いてたの」「そうじゃないでしょ」など褒めることがなかった。このことから子どもを否定せずに保育したいと改めて思った。また私も3年間してきた保育を否定されたこともありきっかけになった。
 

○2年間関わった男児(以降Kとする)の記録と感じたこと、考察を下記に記す。
2.Kについて
自閉症スペクトラム‐発語なし・大きな音、物、声を苦手とする。
激しい偏食で特定の食べ物のみ食べる。
幼稚園の給食はスモールステップでやっていく。
(ふたを開ける→中身を見る→フォークやスプーンでさわる→すくう→口に近づける)
              ↓いずれかのひとつできたら
     「できたね」と褒めて持参したもの食べる                      
意思表示はマカトンサイン。手の甲を2回たたくか、手を2回たたく。
Kにとって不快に思うことがあると泣いて表現する。
(苦手なこと、空腹時、眠いときなど)

◎Kの好きなこと、良いところ
 ・遊び…粘土、スライム、絵本、トランポリン、保育者とのスキンシップ遊び、ダイナミックな身体遊び、水遊び、砂遊び、すべり台、ブランコ。
 ・良いところ…自分の意思がはっきりしている。やってほしいことがあると保育者に要求してくる。クラスの子ども達を笑顔にしてくれる。

3.事例 Kの昼食の姿
○平成29年9月8日
夏休み明け最初の昼食は教室で椅子に座って食べることができていた。

○平成29年9月11日  
・11日は教室にて昼食を食べられている。
・子ども達が「ごちそうさまでした」をしたときに泣く。
・この日以降、教室で食べることはあってもどこか不安な表情を浮かべる。
・「ごちそうさまでした」の子ども達の声を聞くとKが保育者の手を引き廊下へ避難する。
(年中~年長1学期は「ごちそうさまでした」の声も平気で過ごす)
☆保育者が感じたこと、考えたこと
・Kがどうして教室に入れなくなったのか、どうしたら良いのかをクラス全員で考えることで分け隔てなくKと関わることができると考えた。
・Kや他の子ども達の気持ちも考えることができるのではないかと考える。

○保護者との連携
・保護者にも本児の姿は逐一伝えている。
・保護者の考えも取り入れ対応してきた。

○平成29年9月14日
・昼食の時間になると教室に入ることを嫌がる。
・保育者と一緒に避難した廊下へ行く。
・教室からでいただきますの歌が聴こえてくると一度教室に入ることができたがすぐに廊下へ出て行き落ち着きがなくなる。(廊下をうろうろする)
・保育者がKのカバンを持ってごはんの準備をすると、椅子に座らず床に座って少量食べることができた。(廊下にはスペースがあり、小テーブルと子ども用の椅子が置いてある)
☆保育者が感じたこと、考えたこと
・Kなりに廊下は安心できる場所ではなかったと思われる。
・そのため床に座って食べたと考える。
・椅子に座って食べることはKが廊下に対して安心できる場所であると自分で理解してからが良いと考えた。

○平成29年9月11日~ 廊下にて食べている。
・廊下で食べるときには本児のペースに合わせて椅子に座って食べるのではなく安心できる場所の提供から始めた。
・教室の様子も気になり時々見に行くこともある。
・廊下で保育者と一緒に避難しているときや廊下で昼食を食べているときに教室から
ピアノでいただきますの歌と子ども達の「いただきます」の声が聞こえてくると廊下を走り回ったりうろうろしたりと落ち着かないこともあった。
・家庭でも「ごちそうさまでした」を聞いて泣くことがあった。
・自分が食べていないときでも「ごちそうさまでした」を聞くと泣いていた。
☆保育者が感じたこと、考えたこと
・昼食時に教室から聞こえる大きい音(ピアノやいただきます、ごちそうさまでした)はKにとって怖い音になっていると考える。

 ○平成29年9月19日~ クラスの動き
・Kが廊下に行ったため保育者も一緒に行く。
・当番の子ども3人が「Kくんのお弁当持ってきたよ」と廊下へ来る。
・この日から昼食時にKが廊下で避難しているときはその日の当番の子ども達がKのカバンや弁当を持ってきてくれる。

◎クラスミーティング その1
給食を食べながら担任が子ども達にKの昼食時の話をすると子ども達からこのような話の展開ができた。
KOくん:「大きい音がいやなのかな」 
子ども:「そうしたらピアノの音もだよね」
子ども:「ピアノを無しにするのはどうかな」
保育者:「そうだね。大きい音が苦手だからね。ピアノはなしにしてみようか」
Wくん:「いただきますを小さい声で当番の子も椅子に座って手を合わせないでやってみるのはどうかな?」
子ども:「いいよ。」
子ども:「ごちそうさまはどうしようか」
保育者:「なしにして食べ終わった子から遊んでいいよにするのはどうかな」
子ども:「うん。いいよ。やってみよう」

◎ミーティングで決まったこと、取り組んでみること 
・いただきますの歌はなしにする。
・「いただきます」の挨拶は当番の子どもも含め全員椅子に座り手を合わせず小さい声でやる。
・「ごちそうさまでした」はなしにする。
・食べ終わった子どもから遊ぶ。
○取り組んでからの廊下の様子
・教室から「ごちそうさまでした」が聞こえなくなると廊下にある椅子に自分から座って食べられるようになった。
・自分で選択した場所で食べられるようになる。
・Kがひとつひとつできたことに対し、保育者は「Kくん、できたね」「Kくん、まる」と褒めていくことをしてきた。

☆保育者が考えたこと
・Kが昼食時に廊下にいるのはKが自分で見つけた避難場所であり、安心できる場所になってきているからと考えた。
・不安に感じる教室に入って昼食を食べるとなるとKにとってご飯を食べること自体苦手になる可能性が高いと考えた。

○約1ヶ月半クラス全員で取り組んできたKの様子
・廊下でKが昼食を食べ終えた後、教室から「ごちそうさまでした」の声を聞かなくなる。
・「ごちそうさまでした」が聞こえなくなるとKのタイミングで教室に入ることが増えてくる。
・Kが昼食を残し、教室に入ることができたときには保育者がKの残した食べ物を教室内のテーブルに置いてKの様子を見た。
・テーブルに置いてある食べ物にKが気づくと自分から近づき、立ったまま食べることがあった。
・保育者の声かけとして教室に入ることができたときに「Kくんは入れたね」「えらかったね」と褒めてきた。
・その日により教室に入れたり入れなかったりと波があった。
・入れない日はKの不安が大きいと考えたため保育者はKとのスキンシップ遊びやKの好きな遊びをKが満足するまでやった。
・Kが保育者とのスキンシップ遊びに満足すると自分から教室に入り、教室内で遊び込むことができた。
・平成29年10月30日まで廊下にて昼食を食べた。

☆保育者が考えたこと、感じたこと
・昼食時は廊下にいることでKは安心できる場所となったと考える。
・Kが嫌であった「ごちそうさまでした」が聞こえなったからではないか。
・Kが教室に入れなくなったのはKだけの問題ではなく我々にもKに対する配慮に欠けるものがあったのではないかと考えた。

○平成29年10月31日~ 教室のテラスにて昼食を食べる
・廊下には行かないで自分のカバンをテラスに持っていく。
・テーブルと椅子をテラスに準備し保育者もKと同じ場所で昼食を食べる。
・Kは椅子に座ることはなく立って食べたり、一口食べてテラス内を走ったりする。
・椅子に座ることを目的とするのではなく、テラスでも安心できる場所であることをKが確認するまで見守る。
・平成29年11月16日までテラスで昼食を食べる

☆保育者が考えたこと、感じたこと
・廊下は安心できる場所と確認したが、どうやら教室の中が気になっているように感じた。
・廊下では教室の様子を伺えないため教室の中を見ることができるテラスに来たのではないかと考える。
・ただし、教室内では「ごちそうさまでした」が聞こえてくるのではないかという疑念があるため教室より安全なテラスを選んだのではないかと考える。
・またKの大好きな粘土が教室内にあるため教室の中が気になっているのではないかと考えた。               ‐‐
・廊下でKが昼食を食べているとき、教室内を見に行き自分のタイミングで入りすぐに廊下に戻ってくることがあった。手にはKの大好きな粘土があったためである。
・教室は安全であることを本児が理解できるように本児が自分で選択したテラスにて昼食をとることを続けた。
・クラスの子ども達も今起きていることを考えて理解しようとしているため、Kにとって安心できる環境を考えるようになったのではないかと考えた。

◎Kがテラスで昼食を食べ始めている頃の教室内での話。
Sちゃん:「Kくんテラスで食べるみたいだよ」
Wくん :「いただきますは小さい声でやってみようか」
Mちゃん:「椅子に座ってやったほうが良いかもよ」
Wくん :「手も合わせないでやろう」
担任  :「そうだね。やってみよう」と相談して決めていた。
時間を重ねて子ども達の取り組み、Kに対する成功体験が積み重なっていくにつれ、テラスでの昼食時に椅子に座って食べることができるようになる。

☆保育者が考えたこと
Kがテラスで椅子に座って食べられるようになったのは、自分が安心できる場所であり教室の様子も見えて苦手な「ごちそうさまでした」も聞こえないと感じたからかと考える。

○平成29年11月17日 昼食時
・テラスの窓が閉まっていたがKから「開けて」のマカトンサインもなかった。
・テーブルの上に自分のカバンを置き椅子に座ることができた。
・「いただきます」は手を合わせず小声でやったところ泣くこともなくそのまま食べることができた。
・この日から平成29年12月21日まで教室にて昼食を食べることができた。
クラスの子ども達は「今日いただきますどうする」「小さい声でやろう」とKのことを考えて行動する姿がある。
 
☆保育者が考えたこと
・Kが教室で昼食を食べられるようになったのは外が寒くなってきたことにより教室はストーブが点いているためテラスより暖かいからかと考える。
・テラスにて教室を観察して「ごちそうさまでした」はなくなったと安心できた。テラスは安心できるため教室にいられそうだとKが思ったからか。
・相互作用によりテラスは寒い、「ごちそうましでした」は教室から聞こえなくなったため教室で食べても大丈夫と作用したと考えた。

○平成30年1月10日
・昼食は教室に入ることができる。
・保育者は「Kくんごはんの準備します。」と声をかけたが、教室内を歩き回り落ち着きがなかった。
・子ども達と保育者は先に食べ始め本児の様子を見ることにした。
・Kは周りの様子をよく見ており、今は何をする時間なのかは理解して自分からカバンを持って椅子にも座って食べることができた。
・食べる量が少なく本児が食べ終わりの挨拶をしたく保育者の手を引いて手を合わせようとする。
・Kが保育者の手を合わせた瞬間席を立ち泣いて廊下に行く。
・本児が落ち着くまで保育者は教室で見守る。
・クールダウンをして子ども達が遊び始めたころ教室に入り粘土で遊ぶ。

☆保育者が感じたこと、考えたこと
・教室で食べることはできたが不安な気持ちがあった。
・冬休みが入ったために落ち着けなくなった。
・子ども達の他に保育者が手を合わせたことにより「ごちそうさまでした」に対しての不安がフラッシュバックしたのではないかと考えた。
 

○平成30年1月11日
・昼食の時間でKは教室に入ることができた。
・昼食の準備をすることはなく教室内を歩き回ったり、テラスに出たりして落ち着きがなかった。
・自分のタイミングでカバンを持ちテーブルに置くことができた。
・クラスの子ども達が昼食を食べている間Kは持ってきた昼食を一口食べて終わりだった。
・Kが食べているときは教室内を歩き回り時々廊下へ行くこともある。
・子ども達が食べ終わり遊び始めて20分後に泣く。
・泣き止むと自分から椅子に座り、残っていた昼食を食べたが廊下に行くこともあった。 

☆考えられる原因として
保護者の考え
・一斉に食べる経験がないからではないか。
・外食に行く一斉に食べることがないからか。
・家庭でも家族全員で一斉に食べることがないため。

保育者の考え
・一斉に食べ始めること、一斉に遊び始めることは全体の雰囲気がざわつくためではないか。そのため本児が落ち着けないのではないか。
・他の子どもの視線が気になるのではないか。なぜなら人に注視されることを嫌がる傾向があるため。

◎ミーティング その2 
 一斉のざわつき、一斉に遊びだすこと、他の子どもの視線が気になるのではないかという仮説を検証するために、ミーティングを行い対応を考えた。

○平成30年1月12日
 保育者は仮説の検証するため対応を提案する。
保育者 :「テーブルをバラバラにして座るのはどうかな」
子ども :「いいよ」
Mちゃん:「4人ずつ座るとか」
保育者 :「座る人数を少なくするんだね」
子ども:「そう。」
Wくん:「でも4人ずつも嫌かもしれないよ」
KOくん:「Kくんを1人にしてみるのはどう?」
保育者:「どうしてそう考えたの?」
KOくん:「1人のほうが落ち着くのかもしれないから」
保育者:「そっか。そうだね。」
Wくん:「今日、外遊びから戻ってきたら手を洗って静かにお部屋に入って準備するの。
そして挨拶をしないで食べてみるのはどうかな」
保育者:「そうだね。やってみようか」

☆対応として
外遊びから戻ってきて準備ができた子から食べる。
テーブルの位置を変える。  図1
本児を1人にして食べてみる。図2 

図1 ☆今まで全員の顔が見える囲み席

  〇   〇  〇   〇

  机ーーーーーーーーーー机       

  ◎   〇  ●〇  〇  ●

 ○…子ども ◎…本児 ●…保育者
                                       
図2 ☆1月12日~現在 テーブルを別々にして座る
             ※日により子ども達の座る場所は替わる。

           〇  〇  
 ーー机ーー    ーー机ーー〇       
 〇   〇        〇

 ◎
●ーー机ーー    ーー机ーー●
         ●〇   〇
          
   ○…子ども ◎…本児 ●…保育者

 ○ミーティングで決めた『静かに教室に入り、準備ができたら挨拶をせず先に食べる』を実行してみたところ、Kは教室を歩き回りながら泣いていたが自分のタイミングでカバンを持ちそのまま椅子に座って昼食を食べることができた。しばらく同じ対応を続け再び安心を提供した。

 ○平成30年1月15日 昼食時
・外から教室に戻ってきて手を洗い、「Kくんごはんの準備します」と保育者が声かけをすると自分から行動し椅子に座って待つことができるようになる。
・当番の子ども達が「今日いただきますどうする」と相談し、「小さい声で座ってやろう」と決めていた。当番の子ども達が「今日は前に立ってやる」や座ってするときにはお互いに目配せをして子ども達で進めていく。

○平成30年1月後半子らの様子
・昼食時はKから椅子に座ることができるようになる。
・「いただきます」の挨拶は通常の声の大きさで実行しても泣くことはなく過ごすことができている。

○平成30年2月22日 延長保育での対応
・Kを含め4人の子どもが延長保育だった。
・おやつ後に男児Wが「今日ごちそうさまやってみようよ。前やってみたら泣かなかったし大丈夫かもしれないよ」と保育者に提案する。
・他の子ども達にも相談し「やってみよう」と子ども達からもでたため実行してみた。
・子ども達から「ごちそうさまでした」と挨拶する。
・Kも椅子の座った状態で保育者がKの目の前で手を合わせ、「ごちそうさまでした」と言う。
・不安がることも泣くこともなく遊びに入ることができた。
・この日からの延長保育はおやつの後は遊ぶ時間とKが理解できるように「ごちそうさまでした。Kくん、遊んでどうぞ」と声かけをしている。

☆保育者が考えたこと
昼食時とは異なり、延長保育のときは人数が少ないため「ごちそうさまでした」の挨拶が平気だったのかと考えた。

○平成30年2月27日以降の昼食時
・教室で椅子に座って食べることができている。
・昼食を食べ終わって椅子に座って絵本を見る。
・他の子どもが粘土で遊んだりデザートを食べていたりするのを見て保育者に「やって」のマカトンサインが出る。
・Kがマカトンサインで「ごちそうさまでした」を要求していると考えた。
・保育者がKの手を合わせて「おしまい。遊んでどうぞ」と言う。
・泣くこともなく遊びに入ることができた。

☆保育者が考えたこと
・2学期以来、子ども達が全員いるところで「ごちそうさまでした」をしていない。
Kは延長保育の時のように少人数の時であれば「ごちそうさまでした」ができる。
・大人数での「ごちそうさまでした」はまだ不安を感じることがあると考えたため「ごちそうさまでした」のかわりに「おしまい」で手を合わせることを食べ終わりの合図にした。

○平成30年3月14日 昼食
・食べる量が少ない。日によって食べないときもあった。
・Kの食べられるものに幼稚園でも家庭でも飽きが来ていて食べるものがなかった。
・保護者よりKと某飲食店に行き具材を別にした温かいそばとカツの肉を食べたと聞いた。
・保育者は幼稚園の昼食時の環境が嫌なのか、Kはそばが一番食べたいのかなど様々考えた。

●職員全員でKの状態を話し合った
・某飲食店のそばとカツの出前を取って幼稚園でも某飲食店のなら食べるのかを検証するか。
・子どもと職員全員で「外食」として実際にKが食べてきた場所で幼稚園のメンバーで食べるのか、それとも保護者でないと食べないのかを検証するかになった。
●話し合った結果
実際に飲食店に行き外食ではKはどのような姿なのか、幼稚園のメンバーで食べるのか、保護者でないと食べないのかを検証することになった。

○平成30年3月20日 外食検証
・座り方は子ども達の顔、職員の顔が見える囲み席だったが座ることができた。
・Kは保護者と食べたものを完食することができた。
・食べ終わってからは絵本を見ていて落ち着いている。
・「ごちそうさまでした」を全員でやることになり保育者がKの手を合わせ「ごちそうさまでした」をした。
・泣くことはなく、笑顔を見せていた。

 ☆食べることができた理由として考えられること
・この時期はKの食べられるものに飽きがきて食べられるものがなくお腹が空いていた。
・いつもと環境が異なるが来たことがあるため楽しいというのがあり平気だったか。
・「ごちそうさまでした」に対する苦手意識は今までの過程の積み重ねによりなくなってきているのかと考える。

4.すべての事例対応から見えてきたこと
・子ども達からの視線や一斉に食べ始めたり子ども達が一斉に遊びに入ったりするざわつき感が主な要因だったかと考える。
・図2のテーブル配置によりKが子ども達に背中を向けているため不快感が軽減され食べられるようになったと考える。
・Kが全体の動きに合わせることも大切であるが、子ども達全員がKを理解しようとすることも大切であると考える。
・そのことのより子ども達が1人の子どもを理解しようとする力が身についてくることが分かった。
・子どもはKだけの理解だけではなく友達の気持ちの理解をするようになった。
・自己理解・他者理解するようになった。

5.本当のクラスの一体感に必要なものとは
それぞれ尊重される子ども達が自己理解、他者理解を通して集団を作る。大人の圧力(大人の指示)による一体感ではなく、子ども達の中から湧き上がる自発的に出る一体感であることが本当の一体感であると考えた。

集団カウンセリング実践

構成的グループ・エンカウンター(SGE)の手法は幼児に対して効果があるか

 

栃木みどり幼稚園 

園長  黒川弘照

 

 

主題設定の理由
学校や会社、その他組織運営をよりよいものとするために用いられる、構成的グループ・エンカウンターは、幼児に対してどの様な効果があるのかを調べてみたかったから。また、年長のクラスにおける子ども同士の人間関係を改善したかった。
現在のクラスは、さまざまな遊びを自分たちで見つけて楽しむことが出来る様になっている。気の会う仲間同士でグループのルールに則って遊びこむ姿も見られるようになって来ている。しかし、その中で一部の女子の間に、友達の取り合いや、「あの子じゃなきゃいや」「今、○○ちゃんと遊んでいるからあっちに行って」などの仲間はずれや、入れてあげない、あの子が来るからあっち行こうなどの行為が見られる。好きな子を独占して遊びたいという気持ちを理解しつつも、お互いの関係性や、どのような子も、とても大切な存在なのだということを理解して身につけさせたいと思ったため。

実践内容
カウンセリングの一形態としての「構成的グループ・エンカウンター(SGE)」の手法を用いて、幼稚園年長児に対してのエクササイズを行ってみる。集団でのエクササイズを通して自分と友達との関係性を感じてもらう。ときには自分を主張し、ときには友達を尊重することを構成的に体験させる。本来、子どもは遊びの中から自然と身につけることではあるが、その獲得が弱い子どもに対して、明確に感じられるようにする。振り返りやシアルングで自分と他者との関係性を確かなものとする。

仮説
子どもたちは、日々の生活の中でさまざまな社会のルールや人間関係のスキルを獲得していく。特に幼稚園の年中後半から年長クラスの時期は、自分と他児との人間関係が活発に行われるようになり、子ども同士の関わりの中で、自分の思いを主張し、相手の思いを受け止めながら人間関係を築いていく時期である。しかし、その獲得度合いは、個人差やその子の特性により必ずしも効果的に獲得できるものではないと思う。このような場合において、構成的グループ・エンカウンター(SGE)的な心理療法を用いることは、生活の中でのスキル獲得がスムーズにおこなえない子どもたちに効果があると思われる。
{構成的グループエンカウンター(SGE)は、「(集中的)グループ体験」そのものとされており、カウンセリングの一形態である。またSGEを予防的・開発的カウンセリングにおける人間関係開発の技法、すなわち「ふれあい」(リレーション)と「自己発見」のための技法と定義することができる。(構成的グループ・エンカウンターの原理と進め方―國分康孝・片野智治著)}と示してある。ふれあいとは感情交流のことであり、お互いの本音と本音の交流である。{本音と本音の交流とは自分の本音に気付く、気付いた本音を表現・主張する、他者の本音を受け入れる。(構成的グループ・エンカウンターの原理と進め方―國分康孝・片野智治著)}
子どもの中には自己主張が出来ずに言いたいことを我慢している子どももいる。このような子どもたちに対して自己を開示させて主張することの意味を体験させたい。また、他者の本音を受け入れることが出来ない子どもに対して、自分以外の相手も自分と同じくらい大切な存在であることを感じてほしい。エクササイズを通して自分の盲点を気付かせることを目指す。自己理解をしている度合いが大きいほど、他者のことが理解できるとされている。人間は自分では気付くことが出来ない盲点を数多く持っている。その盲点を見つけ出し(感じてもらい)見つめなおすことにより、自己理解を深めることがより良いクラス運営につながるのではないだろうか。
クラスの一部女子の問題点
・仲の良い友達を独占して遊びたい。
・自分が思い描くとおりの遊びがしたい。
・私をいつも中心においてほしい。
・自分の本音を表出出来ない。
などの思いが感じ取れる。


研究上の工夫及び実施上の課題点
構成的グループ・エンカウンターはシアリングを大切にしている。シアリングは言葉を基本としての気持ちの伝達や共有、自分の振り返りであるが、言語能力が発展途上の幼児に対しては、どの様にシアリングや振り返りをさせたらよいのだろうか。
応用する療法
幼稚園における発達障がいを抱える子どもへの対応を応用してみたいと考える。
・言語での伝達が困難な子どもに対して「視覚教材」を用いて、目で見せて理解させる「絵カード」技法。
・気持ちを言語で表現できない子どもに対しておこなう「気持ちの代弁」という技法や、自由に絵を書かせて気持ちを表現させる方法、気持ちを体の動きで表現させる方法などを活用する。
以上の手法を組み合わせることにより、言語能力が発展途上にある幼時のシアリングがより効果的におこなえるように工夫する。


実施記録

第1回目 10月3日
自己紹介・友達紹介
・これから数回にわたって子どもたちと一緒に遊んでいくことを伝える。音楽に合わせて体を動かして楽しい時間をすごし、心と体をほぐしていく。
・初めての回であるので、日ごろ接しているクラスの友達ではあるが、改めて友達のことを深く知るために自己紹介と友達紹介を行う。音楽に合わせて自由に歩き回り、音楽が止まったところで二人組を作る。くみになったところは腰を下ろす。出来た二人組で自分の名前と好きな食べ物を自己紹介する。一通り終わったら、みんなの前でひと組ずつ相手のことを紹介する。
・園長が何度かクラスに入って遊ぶことを楽しいと感じてもらい、その時間を待ち遠しくなってもらえるように仕掛ける。
・シアリングのポイント 自分は友達の話を聞けたか(友達を理解したか)また、自分は友達に自分のことを話せたか(理解してもらえたか)を表現させる。

子どもの様子
 エクササイズを行った翌日、クラス女子の遊びにいつもと違う一面が見受けられた。朝の登園後、外遊びのクラス活動へと移行した。
女子は発達に問題がある子を除き、全員砂場遊びを始めた。砂場で山作り、川作りを始める。
役割分担を決めて、協力して山や川を作る。「〇〇ちゃんはそっちから固めてね。私はこっちから固めるから」などと声をかけながら遊び込んだ。山を高くしたり、山に装飾を施したりの工夫も見られた。
~担任の感想~
今までの遊びはTVなどのごっこ遊び的なものであったが、この活動は日頃接している女子の遊びに比べて、より年長らしい遊びであると感じた。
~考察~
第1回目のエクササイズの目指したところは、SGEの原則 ふれあい(リレーション)と自己発見を体験させることを行った。その中でも特にふれあうことに重きを置いた。今までのクラスの子どもは、自分の気の合う友達との関わりがほとんどであった。そこで、日頃あまり交流を持たない子ども同士の関わりを持たせたエクササイズを行ってみた。本音でのふれあいが出来たかというと、必ずしもそこまで及ばなかったと感じたが、その後の遊びの変化などから、何らかの影響があったと思われる。特に注目すべき点は、役割分担をお互いの合意により決めて、一つの目標を達成させようとする姿が明確に見えたことである。普段はお互いの意見対立が多くみられる傾向にあったが、衝突ではなく話し合いを選択し実行した点である。これは、自分と相手の関係性に気付き、お互い気分の良い状態でありたいと思えたからではないか。対手の存在は勿論であるが、自分の存在も大切なものであることを感じたからではないだろうか。第2回目も日ごろあまり交流を持たない子ども同士の触れ合う機会を与えてみようと考える。


第2回目 10月4日
じゃんけん電車 
導入部分で前回遊んだことを少し取り入れて、楽しかった感覚を思い出してもらい、本日の活動につなげる。初めは音楽に合わせ自由に歩いてもらい、音楽がとまったところで近くの子とじゃんけんをし、負けた子どもは勝った子どもの後ろにつながって行く。最後に大きな輪になるまで行う。これを何度か繰り返す。自分はこのクラスの一員であることを感じてもらい、友達もこのクラスの一員なのだと言う意識を持ってもらう。シアリングで子どもたちからの感想を聞きだす。
シアリングのポイント 日ごろどうしても男児は男児、女児は女児などの特定の子ども同士の遊びが多くなりがちである。この回で日ごろあまり交流のない子ども同士でも、一緒に楽しんだことに対する自分の中での気付きを引き出す。いつもの子以外に関心が向くように誘導する。


子どもの様子
今回のエクササイズでは{じゃんけん電車}を行った。一人欠席者がいたために保育者も交えてのエクササイズとなる。最初の段階では子どもたちは活動自体が楽しい様子であった。友達と二人組になることや、音楽が止まったところでパートナーを取り合うなど、表面的な動きの部分を楽しんでいるように見えた。また、先頭になった子どもはそのこと自体がうれしくて、後ろに続く子どものことを考えずに走り回る。結果的に電車は切れてしまう。リーダーから「先頭者は常に後ろのことを考えた行動をとりましょう」と声かけを行った。併せて、電車は絶対に切れないことと、後ろに続く者は先頭の人を信頼してついて行けるようにとの助言を加えた。
回を重ねていくうちに電車の先頭(運転手)になりたがる子どもが出てきた。エクササイズの内容を応用して全員が先頭になるようにした。先頭に立った子どもたちは、先ほどのリーダーの助言を思い出しながら先頭を歩いた。
~考察~
普段おとなしくあまり自分の感情を表出できない女児が、電車の先頭(運転手)になれたときに、今まで見たことのないうれしそうな表情を浮かべて、エクササイズを楽しんでいた。シアリングにおいて先頭になったことがうれしかったと話す。自分の感情を表に出しても良いのだと思えたのだろう。この女児が抱えている環境は、母の価値観が本人に対して影響を与えている。母を意識した行動や価値観に拘束されてしまう傾向があり、ときに自分自身の思いと母の影響のはざまで苦しくなり、身体症状を起こしたこともあった。園の保育方針にある「君は君でいていい」を改めて大切だと確認する。エクササイズの計画段階において、ターゲットを絞り、対象児に合わせたプログラムを組むことも必要である。自分の感情を表出しても良いことと、それを受け入れてくれるクラスの仲間及び教員の存在がわかり、ラポールの形成が確立した。この女児は日常の園生活でも自分自身の思いを表出するようになった。


第3回目 10月5日
石拾い競争 
運動会で自分たちが使用したグランド整備の一環として石拾いを競争で行う。活動を通じて、自分たちの園庭や園舎は、自分たちで大切に整備し大切にするという体験を通じて責任感という概念を理解できるように仕掛ける。
笛の音に合わせて自由に歩いてもらい(短いピッピ)止まれ(長いピー)の音でその場で止まり、近くの子どもと2人組みになりじゃんけんをして、グループを2組作る。出来たグループに子どもたちで好きなグループ名を決めさせる。子どもたちにこれから行う遊びの説明をする。各グループに1個のバケツを配る。リーダーの「用意ドン」の合図に合わせグループで石拾い競争する。時間が来たら笛で終わりを知らせる。体重計を使い、どちらのグループが多く石を拾ったかを決める。勝ったチーム負けたチームそれぞれをたたえる。もう一度の声が出たら対応するが、最大2回まで、「次で最後だよ」と見通しを持たせ、決まりは決まりを理解させ、活動にはルールがあることを示す。時には自分の思いを抑えることを知る。シアリングをして感想を聞く。
シアリングのポイント 自分はチームのためにどれだけ力を尽くしたかを表現させる(自己開示)。友人たちはチームのためにどれだけがんばっていたかを話してもらう(リレーション)。自分と友人とで協力してエクササイズが出来たかどうかをシアリングする。また、絵を描かせて本日の活動のグループで協力したことをより意識させる。

子どもの様子
 現時点で2回のエクササイズをこなしてきているために、積極的にいろいろな子どもと関わろうとするが、やはりグループ分けの時には仲良しで組みたがった。しかし、仲良しで組んでもじゃんけんで勝った組、負けた組に分かれてしまい、残念そうであったが、ぞれぞれの子ども自身で心の折り合いをつけられたようであった。グループで一つの目標に向かって協力し合うことを狙いとする。初めのうちはそれぞれの子どもが自分のやりたいように行動していたが、相手チームの石の量が気になると、リーダーシップをとる子どもが現れ、石の多くありそうなところにチームを引っ張って行く姿が見られた。普段仲の良くない子ども同士も、相手チームに勝つと言う目標のもとに結束して関わりを持つことができていた。
~考察~
仲良しグループではないメンバーでチームを組み協力をしなくてはいけない状況を与えてみた。相手チームに勝つと言う目標が理解できたときには、仲良しグループの壁を乗り越えてエクササイズに取り組んでいたと思う。一つの目標に向かって協力する楽しさがわかったからだと考える。今までの自分の視点を変えることにより、今までこだわっていたグループ以外でも楽しめる経験ができたのだろう。シアリングでは子どもたち同士の関係について考えてもらいたかったが、ゲームの感想になってしまい、うまく深いところまで振り返りができなかった。絵画による表現も試みた。楽しく競争を行ったことが絵に表現されていた。自分と友達が描かれている子どもと、自分一人だけを描く子どもが現れた。子どもの特質が表れていると感じた。この結果を今後の参考にすると良いと考える。集団と個人の関係を感じられたと考える。


第4回目10月6日
新聞紙遊び
新聞紙を取り入れた遊びを行う。本日のエクササイズの説明をする。いつものように子どもたちの気持ちをほぐすための活動を行う。はじめに2人ずつのグループを作る。今回は子どもたちに好きなように作らせる。いつものもめごとが起きる可能性があるので、時間を区切り、いざこざをも取り込む。納得行かないメンバーとなったグループでも協力しなければ勝てない遊びを行う。新聞紙の上に乗るゲーム。課題をクリアーしたら徐々に新聞紙を折りたたみ狭くしていく。お互いに協力しなければ勝ち残れない状況を作る。身体接触を通してお互いに存在を感じさせる。3人バージョン、4人バージョンも行う。
シアリングをして本日の感想を聞き出す。
シアリングのポイント 自分は相手に対してどう思っていたか、相手は自分のことをどのように感じていたかを表現させお互いの思いをシアリングする。

子どもの様子
 日頃の保育に中で子どもたちが大好きな遊びである新聞紙遊びを行った。その中でも今回は、身体的な接触及び子ども同士の協力が必要になるようにエクササイズを行った。上記のゲームを進める中で、いつもはぶつかり合う子ども同士も、ゲームに勝つと言う目標に向かい、お互いのアイデアを出し合ったり、だっこやおんぶをしたりして、勝利を勝ち取ろうとする姿が見られた。
 シアリングでエクササイズの感想を聞いてみた。はじめは「楽しかった」「私たち勝った」などの表面的な感想ばかりだった。第3回目のシアリングにおいてもゲームの感想や表面的な内容のシアリングになってしまったため、今回は気持ちの代弁技法を応用して方向性の修正を行った。
・子どもとのシアリング
リーダー「ゲームに勝てたのはどうしてだと思う」
子どもA「がんばったから」
リーダー「誰がどのようにがんばったのかな」
子どもA「私ががんばった」
リーダー「Aちゃん一人でがんばったのね」
子どもA「うーん、Bちゃんもがんばったの。二人でがんばったんだ」
リーダー「そうなんだね、二人ががんばったのね」
子どもA「うん、いつもは喧嘩しちゃうことが多いけどね。今日は喧嘩しなかったの、とても楽しかったんだ。」
リーダー「そうなんだね、Bちゃんとがんばったからゲームに勝てたんだね。」
子どもA「うん。」
~考察~
第3回目のシアリングでは表面的な内容に終始してしまった。その反省から今回の第4回目のシアリングにおいては、子どもたちの考えや感情が深いところまで届くように、リーダーからのヒントを入れてみた。その結果、表面的な事柄のシアリングからより深い部分でのシアリングができたと思う。しかし、介入方法を間違えると、子どもたちの自らの気づきではなく、押しつけになる危険性がある。今後の研究課題となる部分である。


第5回目 10月7日
信頼できるパートナー
自分のパートナーを100パーセント信頼するエクササイズを行う。ウォーミングアップの後二人組みを作らせる。一人の子が目隠しをして、パートナーと腕を組む。目隠しをしている子どもを連れて園舎内を自由に歩いてもらう。5分間で役割を交代する。それぞれの役割が終わったらパートナー同士で感想を話し合わせる。その後一人ひとりみんなの前に出て感想を発表する。発表を終えた子どもにクラスの子どもは大きな拍手を送る。人前で話せない子どもがいた場合それを認める。人前で話せる子どももいれば、人前で話せない子どももいる。話が出来ないことに視点を当てるのではなく、話せない子どもがいることがあたりまえの環境を認める。「インクルージョン」協働の学びの場所としてのクラスを意識付けする。最後に全5回のエクササイズを振り返る。

子どもの様子
 はじめにリーダーがクラス担任と組みになりお手本を見せた。子どもたちの反応はとても良く、すぐにでも始めたい様子であった。一通りの説明の後、実態にエクササイズを行った。子どもたちは、思い思いの場所へパートナーをエスコートしながら進んでゆく。エスコートの方法にも子どもの個性が表れるようだ。中にはパートナーに「もっとちゃんと教えて」と言われる子どももいた。
 シアリングのポイントを説明してからパートナー同士で感想を話しあってもらったが、子どもだけでのシアリングは少し無理があったようである。表面的な話をしてくれればまだ良い方であった。ゲームの話や全く関係の無い話を楽しそうにしていた。一人ひとりの発表は、リーダーが子どもに対して、一問一答式で行った。全エクササイズの感想は、一番は楽しかったという思いが強いようである。また、発表をリーダーが一問一答式によりおこなったため人前で話せない子どもはいなかったが、小声でモジモジする子どもがいた。どのような形であれ発表が出来たことを認め、その子自身が存在することの大切さをシアリングで考えた。
~考察~
 子ども同士のシアリングは、年長児といえども少し無理があったようで、思うようにはできなかった。一人ひとりが前に出ての発表を一問一答方式にしたことにより、その子どもに合わせた内容で発表ができたと思う。一人ひとりの個性に合わせて内容を変えたので、この子どもがどのような個性を持っているかを他児に感じてもらえたと考える。パートナーを信頼する目的のエクササイズ効果としては、人を信頼すると言う概念には年齢的に厳しかったと思う。それぞれの回で発表することで、クラスメイトと自分の存在や関係性が普段の園生活よりより効果的に意識できたようである。

課題
・エクササイズ実施回数の研究。(季節、回数、時間帯など)
・実施内容の研究。(同じ内容のエクササイズを繰り返し行うことと、回ごとにエクササイズの内容を変えることで効果に違いがあるかを調べるなど)
・シアリングにおける幼児向けの言語的かかわりと非言語的かかわりの研究。
・子どもの成長による変化なのか、SGEの効果なのかの判断の見極め。
・それぞれのこどもの発達段階を考慮して計画をたてる。
・発達障がい等のコミュニケーションに問題がある子どもへの効果的なアプローチとは。

結果 考察
構成的グループエンカウンター(SGE)の手法は幼児に対して効果があるか。
 自分と他者との関係性に由来する問題に関して、本格的に相手を理解し受け入れ、自分を見つめ直し自分に気づくという構成的グループ・エンカウンターが目指す本来の目的と言う点においては、必ずしも効果的であったとまでは言い切れない。なぜなら、研究上の工夫及び実施上の課題点に記載したとおり、言語を基本としたシアリングが言語力や言語を基に構成する思考力には、さまざまな補助的療法を加えたとしても限界があるように感じた。しかし、実施記録に記したとおり、エクササイズを重ねるごとに、子どもたちにある種の変化が起きていたことも事実である。一部の女子グループが抱えていた問題も、エクササイズを行っている最中から変化が見られた。グループの人間に固執することが少なくなり、遊びもグループ外の子どもたちと一つの目的を持って活動する内容が見られるようになった。これはエクササイズを行うことにより、日常ではかかわる機会の少ない子どもとふれあいを構成的に持たせたからだと考える。その関わりの中から、子どもたちは自分たちで自分たちを意識し、自ら関わろうとする姿勢が生まれたからではないだろうか。しかしながら、子どもの活動はその日の気分や状況により大きく変化する。上記の効果が毎日続くということではなく、時には以前のような人間関係の衝突やいざこざはおきている。このことはマイナス要因ではなく、子どもたちが学びのプロセスを体験しているととらえるべきである。先進各国の幼児教育はこの「プロセスの質」に重きを置いた方向に舵を切りつつある。子どもたちは「学ぶことを学ぶ」のである。だからこそ、日々の保育の流れの中に、構成的グループ・エンカウンターの手法を活用することは、子どもたちの成長にとって有益であると考える。


文献
・構成的グループ・エンカウンターの原理と進め方 國分康孝+片野智治 -誠信書房
・カウンセリング序説 小林純一 -金子書房
・乳幼児精神発達診断法 津守真 磯部景子 -大日本図書
・ペアレント・トレーニングガイドブック 岩坂英巳 -じほう
・幼児教育・保育をめぐる国際的動向~OECDの視点から見た質の向上と保育政策~
兵庫教育大学 鈴木正敏

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