旧栃木みどり幼稚園
研究論文
- 自分の席に座り参加をする。(座ることが難しい時には、子どもたちに伝え承認を取る)
他者資源の発表会 | 自己資源の発表会 | |
ねらいの視点 | 発表会を成功させる。 | 将来幸せになるための必要な力を身につける。 |
保育者の働きかけ | ・子どもに合った演目を考え、子どもに提供する。 ・必要な物を作る又は準備する。 ・練習の時間を取り、繰り返し練習をしていく。 ・できたことを褒める、できていないところを指摘する。 | ・日常生活の中で考える力、表現できる力を身につけられるように関わる。保育者と子どもの関わりの中で、子どもの疑問に対してすぐに答えを伝えるのではなく、「どうしてだろう」「~なのかな」と子どもが考えられるように関わることをした。 ・疑問や提案を含め、大人や子どもから議題がある時には、ミーティングを開く。 |
子どもの動き | ・自分の意思に関係なく、言われたことを練習する。 ・どうしてやるのか納得していないまま、嫌そうに取り組む子がいる。 ・自分から考えて動く子が少ない。 | ・必要な物、自分たちがおこなうこと等を考え、実行する。 ・必要な時には、大人に聞く姿がある。 ・決定したことの責任は自分たちにある為、問題がある時には、話し合い、みんなで考える。 ・自分で練習しようとする意欲が生まれる。 ・個々の個性が発揮される。保育者や周りの子どもが認めていくことで、自己肯定感が積み重なる。 |
子どもの学び | ・教えられた技術ができるようになる。 ・できたことに自信がつく。 | ・計画を立て当日までの見通しを持てるようになる。 ・失敗を次に繋げることができるようになった。(自分で振り返り学習する) ・相手と自分を深く理解し、考えようとする(相手を考えた思いやり) ・コミュニケーション力がついた。 ・自分たちで作ることから、様々な材料・道具を柔軟に用いる力がついた。 ・他者との活動により、リーダーシップやチームワークスキルを獲得した。 |
その後の姿 | ・技術はできるようになるが、発表会以外の場に繋がらない。発表会が終わると、練習でやらされていたことはやらなくなる。 | ・発表会後も子どもの行動として繋がっていく。自ら行動することを通して経験やスキルを構築していくことができる。 |
保護者 | ・できていることに焦点が当たる。 できているという結果や行動で評価される。 | ・プロセスの質に焦点が当たる。 しかし、一人ひとりのプロセスに焦点を当てた保育は保護者の理解が必要である。大人の理解がないと浸透していかない。 園では、取り組みの経緯やねらいを保護者に伝え、個々に子どもの姿を伝えてきた。 |
観察レポート
男児Kの対応をして感じたこと
~本当のクラスの一体感とは~
学校法人長清寺学園 栃木みどり幼稚園 教諭 坂入仁美
1. はじめに
○栃木みどり幼稚園の特徴・教職員について
(1)特徴
・子どもが主体的に動く保育。
・子どもの自己決定。(自分でやりたいことを決める)
・クラスミーティングで話し合いや決め事をする。
・異年齢混合保育
・インクルーシブ教育
(2)教職員
・子ども一人ひとりに合った保育をする。
・子どもとのかかわりは大人と対等にする。
・子どもを否定せず肯定する。(例 お部屋は走りません。ではなく、お部屋は歩きます。)
・子どもの発言や行動で気になった時には記録し、いつ・何時に・何の時にするのかを研究する。
・常に「何で」「どうして」の疑念をもつ。また子どもにも「なんでそう思ったのかな」など問いかける。
・大人の抑圧での保育ではなく子どもの意見を教員が尊重し保育する。
(子どもにも選択する権利がある)
○私の保育に対するポリシー
・子どもの考えや思いなど否定しない。
・子どもの言動や行動で気になったら記録をし、なぜ言ったのかなど考え仮説を立てる。
行動のときはなぜするのか動きを見て考える。
・してはいけないことをしてしまったときは毅然とした態度で子どもに伝える。
・発達障がい児の子どもに対してクラスの子ども達と同じ関わり方で接する。など
○ポリシーになった理由
・毎日の保育研究や終礼カンファレンスで子ども一人ひとりの対応や研究をしていくうちに自分のポリシーになり、子ども達が楽しく幼稚園生活を送れるようにしたいと思ったこと。
・子ども一人ひとりの個性や好きなことを保育者が見つけて子どもに自信をつけてもらいたいと思ったこと。
・発達障がい児の子どもと関わり保育者がその子を理解しようとたりその子のペースに合わせて保育をしていくことにより子どもが頼りにしてくれることが嬉しかったため。
また、保育者が他の子ども達と同じかかわり方をしたり、その子のことを子どもに話をすることのより偏見がなく保育者も子ども達も対等にかかわることができたため。
・平成30年8月に某幼稚園に就職し、製作時間の保育を見て保育者が子どもを否定する言葉が多かった。否定された子どもの表情は暗く自信をなくしているようだった。私が子どもに「上手にできたね」と一言言うと子どもは私の目を見て照れくさそうに笑って頷いてくれた。保育者の言葉かけはほとんどが「違うでしょ」「先生の話聞いてたの」「そうじゃないでしょ」など褒めることがなかった。このことから子どもを否定せずに保育したいと改めて思った。また私も3年間してきた保育を否定されたこともありきっかけになった。
○2年間関わった男児(以降Kとする)の記録と感じたこと、考察を下記に記す。
2.Kについて
自閉症スペクトラム‐発語なし・大きな音、物、声を苦手とする。
激しい偏食で特定の食べ物のみ食べる。
幼稚園の給食はスモールステップでやっていく。
(ふたを開ける→中身を見る→フォークやスプーンでさわる→すくう→口に近づける)
↓いずれかのひとつできたら
「できたね」と褒めて持参したもの食べる
意思表示はマカトンサイン。手の甲を2回たたくか、手を2回たたく。
Kにとって不快に思うことがあると泣いて表現する。
(苦手なこと、空腹時、眠いときなど)
◎Kの好きなこと、良いところ
・遊び…粘土、スライム、絵本、トランポリン、保育者とのスキンシップ遊び、ダイナミックな身体遊び、水遊び、砂遊び、すべり台、ブランコ。
・良いところ…自分の意思がはっきりしている。やってほしいことがあると保育者に要求してくる。クラスの子ども達を笑顔にしてくれる。
3.事例 Kの昼食の姿
○平成29年9月8日
夏休み明け最初の昼食は教室で椅子に座って食べることができていた。
○平成29年9月11日
・11日は教室にて昼食を食べられている。
・子ども達が「ごちそうさまでした」をしたときに泣く。
・この日以降、教室で食べることはあってもどこか不安な表情を浮かべる。
・「ごちそうさまでした」の子ども達の声を聞くとKが保育者の手を引き廊下へ避難する。
(年中~年長1学期は「ごちそうさまでした」の声も平気で過ごす)
☆保育者が感じたこと、考えたこと
・Kがどうして教室に入れなくなったのか、どうしたら良いのかをクラス全員で考えることで分け隔てなくKと関わることができると考えた。
・Kや他の子ども達の気持ちも考えることができるのではないかと考える。
○保護者との連携
・保護者にも本児の姿は逐一伝えている。
・保護者の考えも取り入れ対応してきた。
○平成29年9月14日
・昼食の時間になると教室に入ることを嫌がる。
・保育者と一緒に避難した廊下へ行く。
・教室からでいただきますの歌が聴こえてくると一度教室に入ることができたがすぐに廊下へ出て行き落ち着きがなくなる。(廊下をうろうろする)
・保育者がKのカバンを持ってごはんの準備をすると、椅子に座らず床に座って少量食べることができた。(廊下にはスペースがあり、小テーブルと子ども用の椅子が置いてある)
☆保育者が感じたこと、考えたこと
・Kなりに廊下は安心できる場所ではなかったと思われる。
・そのため床に座って食べたと考える。
・椅子に座って食べることはKが廊下に対して安心できる場所であると自分で理解してからが良いと考えた。
○平成29年9月11日~ 廊下にて食べている。
・廊下で食べるときには本児のペースに合わせて椅子に座って食べるのではなく安心できる場所の提供から始めた。
・教室の様子も気になり時々見に行くこともある。
・廊下で保育者と一緒に避難しているときや廊下で昼食を食べているときに教室から
ピアノでいただきますの歌と子ども達の「いただきます」の声が聞こえてくると廊下を走り回ったりうろうろしたりと落ち着かないこともあった。
・家庭でも「ごちそうさまでした」を聞いて泣くことがあった。
・自分が食べていないときでも「ごちそうさまでした」を聞くと泣いていた。
☆保育者が感じたこと、考えたこと
・昼食時に教室から聞こえる大きい音(ピアノやいただきます、ごちそうさまでした)はKにとって怖い音になっていると考える。
○平成29年9月19日~ クラスの動き
・Kが廊下に行ったため保育者も一緒に行く。
・当番の子ども3人が「Kくんのお弁当持ってきたよ」と廊下へ来る。
・この日から昼食時にKが廊下で避難しているときはその日の当番の子ども達がKのカバンや弁当を持ってきてくれる。
◎クラスミーティング その1
給食を食べながら担任が子ども達にKの昼食時の話をすると子ども達からこのような話の展開ができた。
KOくん:「大きい音がいやなのかな」
子ども:「そうしたらピアノの音もだよね」
子ども:「ピアノを無しにするのはどうかな」
保育者:「そうだね。大きい音が苦手だからね。ピアノはなしにしてみようか」
Wくん:「いただきますを小さい声で当番の子も椅子に座って手を合わせないでやってみるのはどうかな?」
子ども:「いいよ。」
子ども:「ごちそうさまはどうしようか」
保育者:「なしにして食べ終わった子から遊んでいいよにするのはどうかな」
子ども:「うん。いいよ。やってみよう」
◎ミーティングで決まったこと、取り組んでみること
・いただきますの歌はなしにする。
・「いただきます」の挨拶は当番の子どもも含め全員椅子に座り手を合わせず小さい声でやる。
・「ごちそうさまでした」はなしにする。
・食べ終わった子どもから遊ぶ。
○取り組んでからの廊下の様子
・教室から「ごちそうさまでした」が聞こえなくなると廊下にある椅子に自分から座って食べられるようになった。
・自分で選択した場所で食べられるようになる。
・Kがひとつひとつできたことに対し、保育者は「Kくん、できたね」「Kくん、まる」と褒めていくことをしてきた。
☆保育者が考えたこと
・Kが昼食時に廊下にいるのはKが自分で見つけた避難場所であり、安心できる場所になってきているからと考えた。
・不安に感じる教室に入って昼食を食べるとなるとKにとってご飯を食べること自体苦手になる可能性が高いと考えた。
○約1ヶ月半クラス全員で取り組んできたKの様子
・廊下でKが昼食を食べ終えた後、教室から「ごちそうさまでした」の声を聞かなくなる。
・「ごちそうさまでした」が聞こえなくなるとKのタイミングで教室に入ることが増えてくる。
・Kが昼食を残し、教室に入ることができたときには保育者がKの残した食べ物を教室内のテーブルに置いてKの様子を見た。
・テーブルに置いてある食べ物にKが気づくと自分から近づき、立ったまま食べることがあった。
・保育者の声かけとして教室に入ることができたときに「Kくんは入れたね」「えらかったね」と褒めてきた。
・その日により教室に入れたり入れなかったりと波があった。
・入れない日はKの不安が大きいと考えたため保育者はKとのスキンシップ遊びやKの好きな遊びをKが満足するまでやった。
・Kが保育者とのスキンシップ遊びに満足すると自分から教室に入り、教室内で遊び込むことができた。
・平成29年10月30日まで廊下にて昼食を食べた。
☆保育者が考えたこと、感じたこと
・昼食時は廊下にいることでKは安心できる場所となったと考える。
・Kが嫌であった「ごちそうさまでした」が聞こえなったからではないか。
・Kが教室に入れなくなったのはKだけの問題ではなく我々にもKに対する配慮に欠けるものがあったのではないかと考えた。
○平成29年10月31日~ 教室のテラスにて昼食を食べる
・廊下には行かないで自分のカバンをテラスに持っていく。
・テーブルと椅子をテラスに準備し保育者もKと同じ場所で昼食を食べる。
・Kは椅子に座ることはなく立って食べたり、一口食べてテラス内を走ったりする。
・椅子に座ることを目的とするのではなく、テラスでも安心できる場所であることをKが確認するまで見守る。
・平成29年11月16日までテラスで昼食を食べる
☆保育者が考えたこと、感じたこと
・廊下は安心できる場所と確認したが、どうやら教室の中が気になっているように感じた。
・廊下では教室の様子を伺えないため教室の中を見ることができるテラスに来たのではないかと考える。
・ただし、教室内では「ごちそうさまでした」が聞こえてくるのではないかという疑念があるため教室より安全なテラスを選んだのではないかと考える。
・またKの大好きな粘土が教室内にあるため教室の中が気になっているのではないかと考えた。 ‐‐
・廊下でKが昼食を食べているとき、教室内を見に行き自分のタイミングで入りすぐに廊下に戻ってくることがあった。手にはKの大好きな粘土があったためである。
・教室は安全であることを本児が理解できるように本児が自分で選択したテラスにて昼食をとることを続けた。
・クラスの子ども達も今起きていることを考えて理解しようとしているため、Kにとって安心できる環境を考えるようになったのではないかと考えた。
◎Kがテラスで昼食を食べ始めている頃の教室内での話。
Sちゃん:「Kくんテラスで食べるみたいだよ」
Wくん :「いただきますは小さい声でやってみようか」
Mちゃん:「椅子に座ってやったほうが良いかもよ」
Wくん :「手も合わせないでやろう」
担任 :「そうだね。やってみよう」と相談して決めていた。
時間を重ねて子ども達の取り組み、Kに対する成功体験が積み重なっていくにつれ、テラスでの昼食時に椅子に座って食べることができるようになる。
☆保育者が考えたこと
Kがテラスで椅子に座って食べられるようになったのは、自分が安心できる場所であり教室の様子も見えて苦手な「ごちそうさまでした」も聞こえないと感じたからかと考える。
○平成29年11月17日 昼食時
・テラスの窓が閉まっていたがKから「開けて」のマカトンサインもなかった。
・テーブルの上に自分のカバンを置き椅子に座ることができた。
・「いただきます」は手を合わせず小声でやったところ泣くこともなくそのまま食べることができた。
・この日から平成29年12月21日まで教室にて昼食を食べることができた。
クラスの子ども達は「今日いただきますどうする」「小さい声でやろう」とKのことを考えて行動する姿がある。
☆保育者が考えたこと
・Kが教室で昼食を食べられるようになったのは外が寒くなってきたことにより教室はストーブが点いているためテラスより暖かいからかと考える。
・テラスにて教室を観察して「ごちそうさまでした」はなくなったと安心できた。テラスは安心できるため教室にいられそうだとKが思ったからか。
・相互作用によりテラスは寒い、「ごちそうましでした」は教室から聞こえなくなったため教室で食べても大丈夫と作用したと考えた。
○平成30年1月10日
・昼食は教室に入ることができる。
・保育者は「Kくんごはんの準備します。」と声をかけたが、教室内を歩き回り落ち着きがなかった。
・子ども達と保育者は先に食べ始め本児の様子を見ることにした。
・Kは周りの様子をよく見ており、今は何をする時間なのかは理解して自分からカバンを持って椅子にも座って食べることができた。
・食べる量が少なく本児が食べ終わりの挨拶をしたく保育者の手を引いて手を合わせようとする。
・Kが保育者の手を合わせた瞬間席を立ち泣いて廊下に行く。
・本児が落ち着くまで保育者は教室で見守る。
・クールダウンをして子ども達が遊び始めたころ教室に入り粘土で遊ぶ。
☆保育者が感じたこと、考えたこと
・教室で食べることはできたが不安な気持ちがあった。
・冬休みが入ったために落ち着けなくなった。
・子ども達の他に保育者が手を合わせたことにより「ごちそうさまでした」に対しての不安がフラッシュバックしたのではないかと考えた。
○平成30年1月11日
・昼食の時間でKは教室に入ることができた。
・昼食の準備をすることはなく教室内を歩き回ったり、テラスに出たりして落ち着きがなかった。
・自分のタイミングでカバンを持ちテーブルに置くことができた。
・クラスの子ども達が昼食を食べている間Kは持ってきた昼食を一口食べて終わりだった。
・Kが食べているときは教室内を歩き回り時々廊下へ行くこともある。
・子ども達が食べ終わり遊び始めて20分後に泣く。
・泣き止むと自分から椅子に座り、残っていた昼食を食べたが廊下に行くこともあった。
☆考えられる原因として
保護者の考え
・一斉に食べる経験がないからではないか。
・外食に行く一斉に食べることがないからか。
・家庭でも家族全員で一斉に食べることがないため。
保育者の考え
・一斉に食べ始めること、一斉に遊び始めることは全体の雰囲気がざわつくためではないか。そのため本児が落ち着けないのではないか。
・他の子どもの視線が気になるのではないか。なぜなら人に注視されることを嫌がる傾向があるため。
◎ミーティング その2
一斉のざわつき、一斉に遊びだすこと、他の子どもの視線が気になるのではないかという仮説を検証するために、ミーティングを行い対応を考えた。
○平成30年1月12日
保育者は仮説の検証するため対応を提案する。
保育者 :「テーブルをバラバラにして座るのはどうかな」
子ども :「いいよ」
Mちゃん:「4人ずつ座るとか」
保育者 :「座る人数を少なくするんだね」
子ども:「そう。」
Wくん:「でも4人ずつも嫌かもしれないよ」
KOくん:「Kくんを1人にしてみるのはどう?」
保育者:「どうしてそう考えたの?」
KOくん:「1人のほうが落ち着くのかもしれないから」
保育者:「そっか。そうだね。」
Wくん:「今日、外遊びから戻ってきたら手を洗って静かにお部屋に入って準備するの。
そして挨拶をしないで食べてみるのはどうかな」
保育者:「そうだね。やってみようか」
☆対応として
外遊びから戻ってきて準備ができた子から食べる。
テーブルの位置を変える。 図1
本児を1人にして食べてみる。図2
図1 ☆今まで全員の顔が見える囲み席
〇 〇 〇 〇
〇
机ーーーーーーーーーー机
●
◎ 〇 ●〇 〇 ●
○…子ども ◎…本児 ●…保育者
図2 ☆1月12日~現在 テーブルを別々にして座る
※日により子ども達の座る場所は替わる。
〇 〇
ーー机ーー ーー机ーー〇
〇 〇 〇
◎
●ーー机ーー ーー机ーー●
●〇 〇
○…子ども ◎…本児 ●…保育者
○ミーティングで決めた『静かに教室に入り、準備ができたら挨拶をせず先に食べる』を実行してみたところ、Kは教室を歩き回りながら泣いていたが自分のタイミングでカバンを持ちそのまま椅子に座って昼食を食べることができた。しばらく同じ対応を続け再び安心を提供した。
○平成30年1月15日 昼食時
・外から教室に戻ってきて手を洗い、「Kくんごはんの準備します」と保育者が声かけをすると自分から行動し椅子に座って待つことができるようになる。
・当番の子ども達が「今日いただきますどうする」と相談し、「小さい声で座ってやろう」と決めていた。当番の子ども達が「今日は前に立ってやる」や座ってするときにはお互いに目配せをして子ども達で進めていく。
○平成30年1月後半子らの様子
・昼食時はKから椅子に座ることができるようになる。
・「いただきます」の挨拶は通常の声の大きさで実行しても泣くことはなく過ごすことができている。
○平成30年2月22日 延長保育での対応
・Kを含め4人の子どもが延長保育だった。
・おやつ後に男児Wが「今日ごちそうさまやってみようよ。前やってみたら泣かなかったし大丈夫かもしれないよ」と保育者に提案する。
・他の子ども達にも相談し「やってみよう」と子ども達からもでたため実行してみた。
・子ども達から「ごちそうさまでした」と挨拶する。
・Kも椅子の座った状態で保育者がKの目の前で手を合わせ、「ごちそうさまでした」と言う。
・不安がることも泣くこともなく遊びに入ることができた。
・この日からの延長保育はおやつの後は遊ぶ時間とKが理解できるように「ごちそうさまでした。Kくん、遊んでどうぞ」と声かけをしている。
☆保育者が考えたこと
昼食時とは異なり、延長保育のときは人数が少ないため「ごちそうさまでした」の挨拶が平気だったのかと考えた。
○平成30年2月27日以降の昼食時
・教室で椅子に座って食べることができている。
・昼食を食べ終わって椅子に座って絵本を見る。
・他の子どもが粘土で遊んだりデザートを食べていたりするのを見て保育者に「やって」のマカトンサインが出る。
・Kがマカトンサインで「ごちそうさまでした」を要求していると考えた。
・保育者がKの手を合わせて「おしまい。遊んでどうぞ」と言う。
・泣くこともなく遊びに入ることができた。
☆保育者が考えたこと
・2学期以来、子ども達が全員いるところで「ごちそうさまでした」をしていない。
Kは延長保育の時のように少人数の時であれば「ごちそうさまでした」ができる。
・大人数での「ごちそうさまでした」はまだ不安を感じることがあると考えたため「ごちそうさまでした」のかわりに「おしまい」で手を合わせることを食べ終わりの合図にした。
○平成30年3月14日 昼食
・食べる量が少ない。日によって食べないときもあった。
・Kの食べられるものに幼稚園でも家庭でも飽きが来ていて食べるものがなかった。
・保護者よりKと某飲食店に行き具材を別にした温かいそばとカツの肉を食べたと聞いた。
・保育者は幼稚園の昼食時の環境が嫌なのか、Kはそばが一番食べたいのかなど様々考えた。
●職員全員でKの状態を話し合った
・某飲食店のそばとカツの出前を取って幼稚園でも某飲食店のなら食べるのかを検証するか。
・子どもと職員全員で「外食」として実際にKが食べてきた場所で幼稚園のメンバーで食べるのか、それとも保護者でないと食べないのかを検証するかになった。
●話し合った結果
実際に飲食店に行き外食ではKはどのような姿なのか、幼稚園のメンバーで食べるのか、保護者でないと食べないのかを検証することになった。
○平成30年3月20日 外食検証
・座り方は子ども達の顔、職員の顔が見える囲み席だったが座ることができた。
・Kは保護者と食べたものを完食することができた。
・食べ終わってからは絵本を見ていて落ち着いている。
・「ごちそうさまでした」を全員でやることになり保育者がKの手を合わせ「ごちそうさまでした」をした。
・泣くことはなく、笑顔を見せていた。
☆食べることができた理由として考えられること
・この時期はKの食べられるものに飽きがきて食べられるものがなくお腹が空いていた。
・いつもと環境が異なるが来たことがあるため楽しいというのがあり平気だったか。
・「ごちそうさまでした」に対する苦手意識は今までの過程の積み重ねによりなくなってきているのかと考える。
4.すべての事例対応から見えてきたこと
・子ども達からの視線や一斉に食べ始めたり子ども達が一斉に遊びに入ったりするざわつき感が主な要因だったかと考える。
・図2のテーブル配置によりKが子ども達に背中を向けているため不快感が軽減され食べられるようになったと考える。
・Kが全体の動きに合わせることも大切であるが、子ども達全員がKを理解しようとすることも大切であると考える。
・そのことのより子ども達が1人の子どもを理解しようとする力が身についてくることが分かった。
・子どもはKだけの理解だけではなく友達の気持ちの理解をするようになった。
・自己理解・他者理解するようになった。
5.本当のクラスの一体感に必要なものとは
それぞれ尊重される子ども達が自己理解、他者理解を通して集団を作る。大人の圧力(大人の指示)による一体感ではなく、子ども達の中から湧き上がる自発的に出る一体感であることが本当の一体感であると考えた。
集団カウンセリング実践
構成的グループ・エンカウンター(SGE)の手法は幼児に対して効果があるか
栃木みどり幼稚園
園長 黒川弘照
主題設定の理由
学校や会社、その他組織運営をよりよいものとするために用いられる、構成的グループ・エンカウンターは、幼児に対してどの様な効果があるのかを調べてみたかったから。また、年長のクラスにおける子ども同士の人間関係を改善したかった。
現在のクラスは、さまざまな遊びを自分たちで見つけて楽しむことが出来る様になっている。気の会う仲間同士でグループのルールに則って遊びこむ姿も見られるようになって来ている。しかし、その中で一部の女子の間に、友達の取り合いや、「あの子じゃなきゃいや」「今、○○ちゃんと遊んでいるからあっちに行って」などの仲間はずれや、入れてあげない、あの子が来るからあっち行こうなどの行為が見られる。好きな子を独占して遊びたいという気持ちを理解しつつも、お互いの関係性や、どのような子も、とても大切な存在なのだということを理解して身につけさせたいと思ったため。
実践内容
カウンセリングの一形態としての「構成的グループ・エンカウンター(SGE)」の手法を用いて、幼稚園年長児に対してのエクササイズを行ってみる。集団でのエクササイズを通して自分と友達との関係性を感じてもらう。ときには自分を主張し、ときには友達を尊重することを構成的に体験させる。本来、子どもは遊びの中から自然と身につけることではあるが、その獲得が弱い子どもに対して、明確に感じられるようにする。振り返りやシアルングで自分と他者との関係性を確かなものとする。
仮説
子どもたちは、日々の生活の中でさまざまな社会のルールや人間関係のスキルを獲得していく。特に幼稚園の年中後半から年長クラスの時期は、自分と他児との人間関係が活発に行われるようになり、子ども同士の関わりの中で、自分の思いを主張し、相手の思いを受け止めながら人間関係を築いていく時期である。しかし、その獲得度合いは、個人差やその子の特性により必ずしも効果的に獲得できるものではないと思う。このような場合において、構成的グループ・エンカウンター(SGE)的な心理療法を用いることは、生活の中でのスキル獲得がスムーズにおこなえない子どもたちに効果があると思われる。
{構成的グループエンカウンター(SGE)は、「(集中的)グループ体験」そのものとされており、カウンセリングの一形態である。またSGEを予防的・開発的カウンセリングにおける人間関係開発の技法、すなわち「ふれあい」(リレーション)と「自己発見」のための技法と定義することができる。(構成的グループ・エンカウンターの原理と進め方―國分康孝・片野智治著)}と示してある。ふれあいとは感情交流のことであり、お互いの本音と本音の交流である。{本音と本音の交流とは自分の本音に気付く、気付いた本音を表現・主張する、他者の本音を受け入れる。(構成的グループ・エンカウンターの原理と進め方―國分康孝・片野智治著)}
子どもの中には自己主張が出来ずに言いたいことを我慢している子どももいる。このような子どもたちに対して自己を開示させて主張することの意味を体験させたい。また、他者の本音を受け入れることが出来ない子どもに対して、自分以外の相手も自分と同じくらい大切な存在であることを感じてほしい。エクササイズを通して自分の盲点を気付かせることを目指す。自己理解をしている度合いが大きいほど、他者のことが理解できるとされている。人間は自分では気付くことが出来ない盲点を数多く持っている。その盲点を見つけ出し(感じてもらい)見つめなおすことにより、自己理解を深めることがより良いクラス運営につながるのではないだろうか。
クラスの一部女子の問題点
・仲の良い友達を独占して遊びたい。
・自分が思い描くとおりの遊びがしたい。
・私をいつも中心においてほしい。
・自分の本音を表出出来ない。
などの思いが感じ取れる。
研究上の工夫及び実施上の課題点
構成的グループ・エンカウンターはシアリングを大切にしている。シアリングは言葉を基本としての気持ちの伝達や共有、自分の振り返りであるが、言語能力が発展途上の幼児に対しては、どの様にシアリングや振り返りをさせたらよいのだろうか。
応用する療法
幼稚園における発達障がいを抱える子どもへの対応を応用してみたいと考える。
・言語での伝達が困難な子どもに対して「視覚教材」を用いて、目で見せて理解させる「絵カード」技法。
・気持ちを言語で表現できない子どもに対しておこなう「気持ちの代弁」という技法や、自由に絵を書かせて気持ちを表現させる方法、気持ちを体の動きで表現させる方法などを活用する。
以上の手法を組み合わせることにより、言語能力が発展途上にある幼時のシアリングがより効果的におこなえるように工夫する。
実施記録
第1回目 10月3日
自己紹介・友達紹介
・これから数回にわたって子どもたちと一緒に遊んでいくことを伝える。音楽に合わせて体を動かして楽しい時間をすごし、心と体をほぐしていく。
・初めての回であるので、日ごろ接しているクラスの友達ではあるが、改めて友達のことを深く知るために自己紹介と友達紹介を行う。音楽に合わせて自由に歩き回り、音楽が止まったところで二人組を作る。くみになったところは腰を下ろす。出来た二人組で自分の名前と好きな食べ物を自己紹介する。一通り終わったら、みんなの前でひと組ずつ相手のことを紹介する。
・園長が何度かクラスに入って遊ぶことを楽しいと感じてもらい、その時間を待ち遠しくなってもらえるように仕掛ける。
・シアリングのポイント 自分は友達の話を聞けたか(友達を理解したか)また、自分は友達に自分のことを話せたか(理解してもらえたか)を表現させる。
子どもの様子
エクササイズを行った翌日、クラス女子の遊びにいつもと違う一面が見受けられた。朝の登園後、外遊びのクラス活動へと移行した。
女子は発達に問題がある子を除き、全員砂場遊びを始めた。砂場で山作り、川作りを始める。
役割分担を決めて、協力して山や川を作る。「〇〇ちゃんはそっちから固めてね。私はこっちから固めるから」などと声をかけながら遊び込んだ。山を高くしたり、山に装飾を施したりの工夫も見られた。
~担任の感想~
今までの遊びはTVなどのごっこ遊び的なものであったが、この活動は日頃接している女子の遊びに比べて、より年長らしい遊びであると感じた。
~考察~
第1回目のエクササイズの目指したところは、SGEの原則 ふれあい(リレーション)と自己発見を体験させることを行った。その中でも特にふれあうことに重きを置いた。今までのクラスの子どもは、自分の気の合う友達との関わりがほとんどであった。そこで、日頃あまり交流を持たない子ども同士の関わりを持たせたエクササイズを行ってみた。本音でのふれあいが出来たかというと、必ずしもそこまで及ばなかったと感じたが、その後の遊びの変化などから、何らかの影響があったと思われる。特に注目すべき点は、役割分担をお互いの合意により決めて、一つの目標を達成させようとする姿が明確に見えたことである。普段はお互いの意見対立が多くみられる傾向にあったが、衝突ではなく話し合いを選択し実行した点である。これは、自分と相手の関係性に気付き、お互い気分の良い状態でありたいと思えたからではないか。対手の存在は勿論であるが、自分の存在も大切なものであることを感じたからではないだろうか。第2回目も日ごろあまり交流を持たない子ども同士の触れ合う機会を与えてみようと考える。
第2回目 10月4日
じゃんけん電車
導入部分で前回遊んだことを少し取り入れて、楽しかった感覚を思い出してもらい、本日の活動につなげる。初めは音楽に合わせ自由に歩いてもらい、音楽がとまったところで近くの子とじゃんけんをし、負けた子どもは勝った子どもの後ろにつながって行く。最後に大きな輪になるまで行う。これを何度か繰り返す。自分はこのクラスの一員であることを感じてもらい、友達もこのクラスの一員なのだと言う意識を持ってもらう。シアリングで子どもたちからの感想を聞きだす。
シアリングのポイント 日ごろどうしても男児は男児、女児は女児などの特定の子ども同士の遊びが多くなりがちである。この回で日ごろあまり交流のない子ども同士でも、一緒に楽しんだことに対する自分の中での気付きを引き出す。いつもの子以外に関心が向くように誘導する。
子どもの様子
今回のエクササイズでは{じゃんけん電車}を行った。一人欠席者がいたために保育者も交えてのエクササイズとなる。最初の段階では子どもたちは活動自体が楽しい様子であった。友達と二人組になることや、音楽が止まったところでパートナーを取り合うなど、表面的な動きの部分を楽しんでいるように見えた。また、先頭になった子どもはそのこと自体がうれしくて、後ろに続く子どものことを考えずに走り回る。結果的に電車は切れてしまう。リーダーから「先頭者は常に後ろのことを考えた行動をとりましょう」と声かけを行った。併せて、電車は絶対に切れないことと、後ろに続く者は先頭の人を信頼してついて行けるようにとの助言を加えた。
回を重ねていくうちに電車の先頭(運転手)になりたがる子どもが出てきた。エクササイズの内容を応用して全員が先頭になるようにした。先頭に立った子どもたちは、先ほどのリーダーの助言を思い出しながら先頭を歩いた。
~考察~
普段おとなしくあまり自分の感情を表出できない女児が、電車の先頭(運転手)になれたときに、今まで見たことのないうれしそうな表情を浮かべて、エクササイズを楽しんでいた。シアリングにおいて先頭になったことがうれしかったと話す。自分の感情を表に出しても良いのだと思えたのだろう。この女児が抱えている環境は、母の価値観が本人に対して影響を与えている。母を意識した行動や価値観に拘束されてしまう傾向があり、ときに自分自身の思いと母の影響のはざまで苦しくなり、身体症状を起こしたこともあった。園の保育方針にある「君は君でいていい」を改めて大切だと確認する。エクササイズの計画段階において、ターゲットを絞り、対象児に合わせたプログラムを組むことも必要である。自分の感情を表出しても良いことと、それを受け入れてくれるクラスの仲間及び教員の存在がわかり、ラポールの形成が確立した。この女児は日常の園生活でも自分自身の思いを表出するようになった。
第3回目 10月5日
石拾い競争
運動会で自分たちが使用したグランド整備の一環として石拾いを競争で行う。活動を通じて、自分たちの園庭や園舎は、自分たちで大切に整備し大切にするという体験を通じて責任感という概念を理解できるように仕掛ける。
笛の音に合わせて自由に歩いてもらい(短いピッピ)止まれ(長いピー)の音でその場で止まり、近くの子どもと2人組みになりじゃんけんをして、グループを2組作る。出来たグループに子どもたちで好きなグループ名を決めさせる。子どもたちにこれから行う遊びの説明をする。各グループに1個のバケツを配る。リーダーの「用意ドン」の合図に合わせグループで石拾い競争する。時間が来たら笛で終わりを知らせる。体重計を使い、どちらのグループが多く石を拾ったかを決める。勝ったチーム負けたチームそれぞれをたたえる。もう一度の声が出たら対応するが、最大2回まで、「次で最後だよ」と見通しを持たせ、決まりは決まりを理解させ、活動にはルールがあることを示す。時には自分の思いを抑えることを知る。シアリングをして感想を聞く。
シアリングのポイント 自分はチームのためにどれだけ力を尽くしたかを表現させる(自己開示)。友人たちはチームのためにどれだけがんばっていたかを話してもらう(リレーション)。自分と友人とで協力してエクササイズが出来たかどうかをシアリングする。また、絵を描かせて本日の活動のグループで協力したことをより意識させる。
子どもの様子
現時点で2回のエクササイズをこなしてきているために、積極的にいろいろな子どもと関わろうとするが、やはりグループ分けの時には仲良しで組みたがった。しかし、仲良しで組んでもじゃんけんで勝った組、負けた組に分かれてしまい、残念そうであったが、ぞれぞれの子ども自身で心の折り合いをつけられたようであった。グループで一つの目標に向かって協力し合うことを狙いとする。初めのうちはそれぞれの子どもが自分のやりたいように行動していたが、相手チームの石の量が気になると、リーダーシップをとる子どもが現れ、石の多くありそうなところにチームを引っ張って行く姿が見られた。普段仲の良くない子ども同士も、相手チームに勝つと言う目標のもとに結束して関わりを持つことができていた。
~考察~
仲良しグループではないメンバーでチームを組み協力をしなくてはいけない状況を与えてみた。相手チームに勝つと言う目標が理解できたときには、仲良しグループの壁を乗り越えてエクササイズに取り組んでいたと思う。一つの目標に向かって協力する楽しさがわかったからだと考える。今までの自分の視点を変えることにより、今までこだわっていたグループ以外でも楽しめる経験ができたのだろう。シアリングでは子どもたち同士の関係について考えてもらいたかったが、ゲームの感想になってしまい、うまく深いところまで振り返りができなかった。絵画による表現も試みた。楽しく競争を行ったことが絵に表現されていた。自分と友達が描かれている子どもと、自分一人だけを描く子どもが現れた。子どもの特質が表れていると感じた。この結果を今後の参考にすると良いと考える。集団と個人の関係を感じられたと考える。
第4回目10月6日
新聞紙遊び
新聞紙を取り入れた遊びを行う。本日のエクササイズの説明をする。いつものように子どもたちの気持ちをほぐすための活動を行う。はじめに2人ずつのグループを作る。今回は子どもたちに好きなように作らせる。いつものもめごとが起きる可能性があるので、時間を区切り、いざこざをも取り込む。納得行かないメンバーとなったグループでも協力しなければ勝てない遊びを行う。新聞紙の上に乗るゲーム。課題をクリアーしたら徐々に新聞紙を折りたたみ狭くしていく。お互いに協力しなければ勝ち残れない状況を作る。身体接触を通してお互いに存在を感じさせる。3人バージョン、4人バージョンも行う。
シアリングをして本日の感想を聞き出す。
シアリングのポイント 自分は相手に対してどう思っていたか、相手は自分のことをどのように感じていたかを表現させお互いの思いをシアリングする。
子どもの様子
日頃の保育に中で子どもたちが大好きな遊びである新聞紙遊びを行った。その中でも今回は、身体的な接触及び子ども同士の協力が必要になるようにエクササイズを行った。上記のゲームを進める中で、いつもはぶつかり合う子ども同士も、ゲームに勝つと言う目標に向かい、お互いのアイデアを出し合ったり、だっこやおんぶをしたりして、勝利を勝ち取ろうとする姿が見られた。
シアリングでエクササイズの感想を聞いてみた。はじめは「楽しかった」「私たち勝った」などの表面的な感想ばかりだった。第3回目のシアリングにおいてもゲームの感想や表面的な内容のシアリングになってしまったため、今回は気持ちの代弁技法を応用して方向性の修正を行った。
・子どもとのシアリング
リーダー「ゲームに勝てたのはどうしてだと思う」
子どもA「がんばったから」
リーダー「誰がどのようにがんばったのかな」
子どもA「私ががんばった」
リーダー「Aちゃん一人でがんばったのね」
子どもA「うーん、Bちゃんもがんばったの。二人でがんばったんだ」
リーダー「そうなんだね、二人ががんばったのね」
子どもA「うん、いつもは喧嘩しちゃうことが多いけどね。今日は喧嘩しなかったの、とても楽しかったんだ。」
リーダー「そうなんだね、Bちゃんとがんばったからゲームに勝てたんだね。」
子どもA「うん。」
~考察~
第3回目のシアリングでは表面的な内容に終始してしまった。その反省から今回の第4回目のシアリングにおいては、子どもたちの考えや感情が深いところまで届くように、リーダーからのヒントを入れてみた。その結果、表面的な事柄のシアリングからより深い部分でのシアリングができたと思う。しかし、介入方法を間違えると、子どもたちの自らの気づきではなく、押しつけになる危険性がある。今後の研究課題となる部分である。
第5回目 10月7日
信頼できるパートナー
自分のパートナーを100パーセント信頼するエクササイズを行う。ウォーミングアップの後二人組みを作らせる。一人の子が目隠しをして、パートナーと腕を組む。目隠しをしている子どもを連れて園舎内を自由に歩いてもらう。5分間で役割を交代する。それぞれの役割が終わったらパートナー同士で感想を話し合わせる。その後一人ひとりみんなの前に出て感想を発表する。発表を終えた子どもにクラスの子どもは大きな拍手を送る。人前で話せない子どもがいた場合それを認める。人前で話せる子どももいれば、人前で話せない子どももいる。話が出来ないことに視点を当てるのではなく、話せない子どもがいることがあたりまえの環境を認める。「インクルージョン」協働の学びの場所としてのクラスを意識付けする。最後に全5回のエクササイズを振り返る。
子どもの様子
はじめにリーダーがクラス担任と組みになりお手本を見せた。子どもたちの反応はとても良く、すぐにでも始めたい様子であった。一通りの説明の後、実態にエクササイズを行った。子どもたちは、思い思いの場所へパートナーをエスコートしながら進んでゆく。エスコートの方法にも子どもの個性が表れるようだ。中にはパートナーに「もっとちゃんと教えて」と言われる子どももいた。
シアリングのポイントを説明してからパートナー同士で感想を話しあってもらったが、子どもだけでのシアリングは少し無理があったようである。表面的な話をしてくれればまだ良い方であった。ゲームの話や全く関係の無い話を楽しそうにしていた。一人ひとりの発表は、リーダーが子どもに対して、一問一答式で行った。全エクササイズの感想は、一番は楽しかったという思いが強いようである。また、発表をリーダーが一問一答式によりおこなったため人前で話せない子どもはいなかったが、小声でモジモジする子どもがいた。どのような形であれ発表が出来たことを認め、その子自身が存在することの大切さをシアリングで考えた。
~考察~
子ども同士のシアリングは、年長児といえども少し無理があったようで、思うようにはできなかった。一人ひとりが前に出ての発表を一問一答方式にしたことにより、その子どもに合わせた内容で発表ができたと思う。一人ひとりの個性に合わせて内容を変えたので、この子どもがどのような個性を持っているかを他児に感じてもらえたと考える。パートナーを信頼する目的のエクササイズ効果としては、人を信頼すると言う概念には年齢的に厳しかったと思う。それぞれの回で発表することで、クラスメイトと自分の存在や関係性が普段の園生活よりより効果的に意識できたようである。
課題
・エクササイズ実施回数の研究。(季節、回数、時間帯など)
・実施内容の研究。(同じ内容のエクササイズを繰り返し行うことと、回ごとにエクササイズの内容を変えることで効果に違いがあるかを調べるなど)
・シアリングにおける幼児向けの言語的かかわりと非言語的かかわりの研究。
・子どもの成長による変化なのか、SGEの効果なのかの判断の見極め。
・それぞれのこどもの発達段階を考慮して計画をたてる。
・発達障がい等のコミュニケーションに問題がある子どもへの効果的なアプローチとは。
結果 考察
構成的グループエンカウンター(SGE)の手法は幼児に対して効果があるか。
自分と他者との関係性に由来する問題に関して、本格的に相手を理解し受け入れ、自分を見つめ直し自分に気づくという構成的グループ・エンカウンターが目指す本来の目的と言う点においては、必ずしも効果的であったとまでは言い切れない。なぜなら、研究上の工夫及び実施上の課題点に記載したとおり、言語を基本としたシアリングが言語力や言語を基に構成する思考力には、さまざまな補助的療法を加えたとしても限界があるように感じた。しかし、実施記録に記したとおり、エクササイズを重ねるごとに、子どもたちにある種の変化が起きていたことも事実である。一部の女子グループが抱えていた問題も、エクササイズを行っている最中から変化が見られた。グループの人間に固執することが少なくなり、遊びもグループ外の子どもたちと一つの目的を持って活動する内容が見られるようになった。これはエクササイズを行うことにより、日常ではかかわる機会の少ない子どもとふれあいを構成的に持たせたからだと考える。その関わりの中から、子どもたちは自分たちで自分たちを意識し、自ら関わろうとする姿勢が生まれたからではないだろうか。しかしながら、子どもの活動はその日の気分や状況により大きく変化する。上記の効果が毎日続くということではなく、時には以前のような人間関係の衝突やいざこざはおきている。このことはマイナス要因ではなく、子どもたちが学びのプロセスを体験しているととらえるべきである。先進各国の幼児教育はこの「プロセスの質」に重きを置いた方向に舵を切りつつある。子どもたちは「学ぶことを学ぶ」のである。だからこそ、日々の保育の流れの中に、構成的グループ・エンカウンターの手法を活用することは、子どもたちの成長にとって有益であると考える。
文献
・構成的グループ・エンカウンターの原理と進め方 國分康孝+片野智治 -誠信書房
・カウンセリング序説 小林純一 -金子書房
・乳幼児精神発達診断法 津守真 磯部景子 -大日本図書
・ペアレント・トレーニングガイドブック 岩坂英巳 -じほう
・幼児教育・保育をめぐる国際的動向~OECDの視点から見た質の向上と保育政策~
兵庫教育大学 鈴木正敏